[2023_07_12_01]「ベップワニアン」選ばれず「人新世」正式候補はカナダの湖に(NHK2023年7月12日)
 
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「ベップワニアン」選ばれず「人新世」正式候補はカナダの湖に

 46億年の地球の歴史の中で、人類が繁栄した時代を新たに「人新世」として地質学上の区分に加えようと選定を進めている国際的な学術団体の作業部会は、この時代を象徴する地層の正式な候補としてカナダにある湖を選んだと発表しました。
 12か所の候補地の1つに挙がっていた日本の別府湾は選ばれませんでした。
 国際的な学術団体「国際地質科学連合」の作業部会は、「完新世」や「更新世」など地質学上の時代区分に、人類の繁栄した時代、「人新世」を新たに区分し、象徴的な地層の選定を進めています。
 アメリカ、中国、カナダなどの世界12か所の候補地が選ばれ、この中には愛媛大学や東京大学などの研究チームが提案した大分県の別府湾も含まれています。
 作業部会は各チームの調査結果を踏まえて投票を行った結果、人為的な環境の変化が年単位で調べられるカナダのオンタリオ州にある「クロフォード湖」を正式な候補に決めたと日本時間の12日、発表しました。
 作業部会は今後、「国際地質科学連合」の小委員会に提案し、「人新世」の選定に向けた手続きを進めることにしています。
 3年前、千葉県市原市の地層をもとに地質学上の時代として命名された「チバニアン」に続くことが期待されていた、「別府湾時代」を意味する「ベップワニアン」は実現しませんでしたが、今後、「人新世」の特徴を補う副次的な地層として選定されることを目指すということです。

 「最終候補に選ばれず残念だが 理解が深まるきっかけに」

 日本の研究チームを率いる愛媛大学の加三千宣准教授は「最終候補に選ばれず残念な結果となりましたが、人新世を地質学的に定義する今回の取り組み自体は、人類が地球をどのように変えてきたのか、これから人類が取るべき行動は何なのかについて議論が活発に行われ、社会全体の理解が深まるきっかけになったと思っています」とコメントしています。
 また、研究チームは今後、別府湾が「人新世」の特徴を補う副次的な地層として選定されることを目指すということで、「これまでの調査を通じて別府湾からは人為的な影響を受けた地層の痕跡が多数確認されています。人新世の始まりを明確に認識できるため、間違いなく人新世を代表する地層と言ってもいいと思います。補助模式地になる可能性は残されており、それが人新世という時代を生きる私たちの道しるべになることを期待しています」としています。

 「ベップワニアン」日本の研究チームが提案

 「人新世」とは、オゾン層などの研究で1995年にノーベル化学賞を受賞したパウル・クルッツェン氏らが提唱したことば、「Anthropocene」を和訳したことばです。
 「ひとしんせい」とも読みますが、地質学者の間では地球史における時代区分の「完新世」や「更新世」と同様に音読みの「じんしんせい」が使われています。
 国際的な学術団体、「国際地質科学連合」の作業部会は、人類の繁栄した時代を象徴する地層を地球上で1か所選び、新たな時代区分にしようと、アメリカ、中国、カナダなど世界12か所の候補地から選定作業を進めてきました。
 日本からは大分県の別府湾が候補地になっていて、愛媛大学や東京大学などの研究グループが、海底の地層を取り出してさまざまな観点から分析を行ってきました。
 去年7月には核実験が繰り返された1950年代に、世界じゅうに降ったごく微量のプルトニウムが別府湾海底の地層から検出されたという論文を発表しました。
 また、海の生態系への影響が懸念されている「マイクロプラスチック」が、日本の高度成長期にあたる1958年から61年の層で最初に確認され、増減を繰り返しながら徐々に増えていることも報告されています。
 さらに、研究チームが採取した別府湾の海底の地層にはしま模様のように見える筋が入っています。
 この地層を採取した海域では、海底付近の酸素が薄く生物が少ないため、海底に沈んだ泥がかき混ぜられにくく、時間の経過とともに降り積もり層状になっていて、地層の成分を年単位で調べられるということです。
 こうした理由から研究チームは「人新世」を象徴する地層にふさわしいとして、「別府湾時代」を意味する、「ベップワニアン」として提案していました。
 およそ77万年前から13万年前までの地質学上の時代について、千葉県市原市の地層をもとに名付けられた「チバニアン」に続き、新たな地質学上の時代が日本から選ばれることが期待されていました。

 「人新世」選定に向けて これからが正念場

 今後の「人新世」の選定に向けては、国際的な学術団体の「国際地質科学連合」による3段階の審査をクリアする必要があります。
 はじめに現在を含む時代区分で、およそ260万年前から続く第四紀の研究者でつくる「第四紀層序小委員会」での投票を経て上部組織にあたる「国際層序委員会」での投票が行われ、それぞれ6割以上の賛成が必要になります。
 さらに「国際地質科学連合」の理事会に提案され、承認されれば新たな時代区分として決まります。
 ただ、研究者の間では「人新世」を地質学上の時代区分とすることに対して、異論も出ているといいます。
 これまでの地質年代は長いものでは数百万年単位で起きた地球規模の変化を地層に残された化石などをもとに区分しています。
 これに対し、今回、議論されている「人新世」は世界の人口が増加し、経済活動が急激に拡大した1950年ごろから70年ほどの地層を調べて、人為的な影響を評価して区分しようとしています。
 70年ほどという「人新世」の長さは46億年の地球の歴史のなかでは一瞬の出来事にあたります。
 このため、「人新世」をこれまでの地質時代区分と同列に議論するのは難しいとする意見も出ていることから、選定に向けてはこれからが正念場になる見通しで、この夏以降に予定されている今後の審査の行方が注目されます。
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