[2023_07_05_10]IAEA報告書 「夏ごろ放出」最終局面 根強い反対、道筋見えず(東奥日報2023年7月5日)
 
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IAEA報告書 「夏ごろ放出」最終局面 根強い反対、道筋見えず

 東京電力福島第1原発の処理水海洋放出計画について、国際原子力機関(IAEA)が安全性を担保する包括報告書を公表し、政府と東電は目標とする「夏ごろ」の放出開始に向け国内外への説明を加速させる構えだ。しかし漁業者の反対は根強く、夏の観光シーズンヘの懸念も。放出への理解を得る道筋がはっきりとしないまま、岸田文雄首相の決断に向けた最終局面を迎える。

 「この結果は科学的かつ中立的なものだ。日本が次のステージに進むにあたり、決断を下すのに必要な要素が全て含まれている」。4日、官邸で岸田首相と会談したIAEAのグロッシ事務局長は、自信を込めて報告書を手渡した。
 海洋放出を始めるためには、@海底トンネルなど放出設備の完成A原子力規制委員会の検査合格BIAEA報告書で国際的な安全性の担保を得るーが『三種の神器』(東電関係者)とされてきた。設備は6月26日に完成し、今週中にも規制委の検査に合格する見通し。神器が全てそろい、首相が放出時期を判断する前提が整うことになる。
 しかしここまでは難しい交渉や根回しなどは不要で難易度は高くなく、既定路線とも言えた。政府と東電にとって最大の壁は、風評被害を懸念する漁業者らの理解を取り付けることだ。政府と東電は2015年、福島県漁業協同組合連合会と「関係者の理解なしには(処理水の)いかなる処分もしない」との重い約束を交わしている。
 政府内で放出に向けた実務を担う経済産業省関係者は「約束をどう守るつもりなのか、省内でも限られた人しか情報がない。そもそも青写真を措けているのかすら分からない。それほどの難題だ」と話す。
 「夏ごろ」が迫る中で、地元からは具体的な不安の声が上がり始めた。福島県内では底引き網漁が7〜8月の禁漁期闇を終え、9月から再開する。同県いわき市の沖合底引き網漁船船主、志賀金三郎さん(76)は「消費者は敏感だ。禁漁期間に海洋放出され、漁が始まった直後に1匹でも基準値を超える魚が出ようものなら一気に示安が広がる」と危ぶむ。
 新型コロナウイルス禍明けに期待をかける観光関係者からは海水浴シーズン中に放出しないよう求める意見も。公明党の山口那津男代表も「避けた方が良い」と一時同調し、波紋が広がった。いわき市の民宿経営鈴木幸長さん(70)は「海水浴に関わる人に話がないまま議論が進んでいる」と不満を漏らす。
 それでも官邸筋は「夏の放出開始は変わらない」と強調し、首相が政治決断する時期は近いとの見方を示す。ただし当面の政治日程が影響を及ぼす可能性もはらむ。l
 東日本大震災の被災地では、11年春に予定されていた統一地方選が延期されたところが多い。12年後の今年は任期満了のサイクルと重なり、夏から秋にかけ「選挙ラッシュ」を迎える。対応を一歩間違えれば批判が政権に集中し、選挙にマイナスとなる可能性がある。
 世論が離反し政権基盤が不安定になれば、衆院解散の時期を探る首相の判断をも左右しかねない。
 政府関係者は「全ての意見や事情に配慮すればいつまでも放出に踏み切れない。政府が全責任を負う覚悟を持ち、ここぞのタイミングで決着させるしかない」と語った。
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