[2023_06_13_02]社説(6月11日)原発60年超法成立 安全確保へ議論尽くせ(静岡新聞2023年6月13日)
 
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社説(6月11日)原発60年超法成立 安全確保へ議論尽くせ

 2011年の東京電力福島第1原発事故の後、「原則40年、最長60年」とされてきた原発の稼働期間を、60年を超えても可能にする「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」が国会で成立した。
 原発に関する重大な政策転換だ。それも熟議を重ねることなく、国民が十分納得しているわけでもない。原発事故を忘れてしまったかのような拙速な決定と言わざるを得ない。老朽化した原発の安全性をどのように担保するのか、今後もオープンな場で公正な議論を重ねるべきだ。
 発電時に、二酸化炭素(CO2)を出さない原発は脱炭素という観点では有力なエネルギーだ。しかし、過酷事故の悲惨さは誰もが覚えているはずだ。廃炉作業もまだ緒に就いたばかりで、事故当時に炉内で何が起きたかの全容が分かっているわけではない。
 政府はこれまで「原発依存度の可能な限りの低減」を掲げてきた。ところが岸田文雄首相は昨年8月、撤回する形で原発の「最大限利活用」を進めるように指示。法改正や新政策の議論は、推進に前向きな経済産業省を中心とする一部の関係者の参加に限られ、短期間で方針転向した。
 同法は「原則40年、最長60年」の大枠を維持しながらも運転期間の規定を原子炉等規制法から電気事業法へ移管。経産相が認可すれば、原子力規制委員会の再稼働審査で停止した期間などを除外し、60年を超す運転が可能となる。
 規制委は運転開始30年後から最長10年ごとに劣化を確かめる。老朽化した部品は交換すればいいが、圧力容器などの心臓部は取り換えができない。原子炉の設計思想や使用されている技術の「古さ」はどのように評価するのか。安全性の担保には疑念が残る。
 国会には、電気事業法など関連する5本の法律をまとめて議論する「束ね法案」の形で提出されたので、十分な審議時間が確保されたとは言い切れない。市民団体などが求めた福島県での地方公聴会は開かれず、被災住民の声を直接聞くこともなかった。
 同法は、原発活用による電力安定供給の確保や脱炭素社会の実現は「国の責務」とうたった。ウクライナ危機後は化石燃料などエネルギー価格が高騰。安定供給できるエネルギーは不可欠だが、原発の再稼働はなお課題が多い。事業者任せにせず、責務を果たす覚悟が政府にどれだけあるかが問われている。
 安全性を高めた次世代炉も全く見通せない。事業者がコストのかからない古い炉にしがみつき、次世代炉の開発だけでなく、再生可能エネルギーの活用も鈍ることが懸念される。政府はこうした疑問にも真摯[しんし]に答える必要がある。
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