[2023_06_10_04]「反対堅持」と漁業団体、でも西村経産相「夏ごろ放出方針変わりない」 原発処理水海洋放出で意見交換(東京新聞2023年6月10日)
 
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「反対堅持」と漁業団体、でも西村経産相「夏ごろ放出方針変わりない」 原発処理水海洋放出で意見交換

 東京電力福島第一原発(福島県大熊町、双葉町)の処理水の海洋放出計画を巡り、西村康稔経済産業相は10日、福島、茨城、宮城の3県を訪れ、漁業団体と意見交換した。漁業者からは風評被害への懸念から放出に反対する声が上がり、議論は平行線をたどった。西村氏は終了後の会見で「反対の声は受け止めないといけない」としながらも「夏ごろの放出方針に変わりはない」と強調した。(片山夏子、渡辺聖子)

 ◆政府の約束「関係者の理解なしに処分もしない」どうなる

 福島県いわき市の県漁業協同組合連合会では、野崎哲会長ら10人が参加。西村氏が「福島第一原発の廃炉を進めるには、処理水の放出は避けては通れない」と理解を求めると、野崎会長は原発の廃炉を完結させることは望むとしながらも「地元で漁業をしたいという立ち位置から(海洋放出に)反対を堅持する」と厳しい表情で話した。
 終了後、取材に応じた野崎会長は「反対するわれわれとはずっと平行線だ」と議論を振り返った。「民主主義国家なのだから、国がわれわれに賛成しろと言うことはできない。今後も国の説明は聞くが、反対は変わらない」と強調した。
 水戸市の茨城沿海地区漁業協同組合連合会では、飛田正美代表理事会長が後継者問題などを理由に「断固反対」と訴えた。
 政府と東電は2015年、福島県漁連に対し「関係者の理解なしにいかなる処分もしない」と約束。西村氏は取材に「約束は守る。漁業者が不安に思う以上、丁寧に説明する。私の責任だ」と述べた。

 ◆放出設備は完成間近、国際的な手続きも進む

 東京電力福島第一原発でたまり続ける処理水を海へ放出するための設備は、主な工事をほぼ終えた。東電は「6月末の設備完成を目指す」としており、放出に向けた準備は最終局面を迎えている。
 2022年8月に福島県と、原発が立地する大熊、双葉の両町が工事に同意し、東電が着工して1年足らず。これまでに処理水を運ぶ配管や、放出前の水を一時的にためる貯水槽など陸側の設備は完成した。海底トンネルも4月に掘削が完了。現在はトンネル内を海水で満たし、漏えいの有無を確認している。
 東電によると、今後はトンネル掘削に使ったシールドマシンをクレーン船で引き上げ、海底の放出口に砂の流入を防ぐ構造物を設置する作業が控える。
 国際原子力機関(IAEA)は今月2日、放出前の最終的な現地調査を終えた。海洋放出計画が適切かどうかを検証した報告書を近く公表するとみられ、放出への手続きも整いつつある。
 処理水の保管タンクが満杯になるのは24年2〜6月ごろの見込みだが、政府や東電は「今夏ごろ」の放出開始を目指す姿勢を崩していない。

 福島第一原発の処理水 2011年の東京電力福島第一原発事故後、1〜3号機内の溶け落ちた核燃料(デブリ)の冷却作業で発生する汚染水を浄化設備で処理した水。放射性物質トリチウムが除去できずに残っている。今月1日時点の貯蔵量は約132万トンでタンク容量の98%。政府と東電の計画では、処理水に大量の海水を混ぜ、トリチウム濃度を国の排水基準の40分の1未満にした上で、沖合約1キロの海底から放出する。
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