[2023_06_07_02]長崎・対馬の核ごみ調査 漁業者らが風評被害を懸念 長期化への不安も(長崎新聞2023年6月7日)
 
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長崎・対馬の核ごみ調査 漁業者らが風評被害を懸念 長期化への不安も

 原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場の選定調査の議論が進む長崎県対馬市で、漁業者らが風評被害への懸念を強めている。推進、反対双方の請願が5日、市議会に出され、調査に前向きな市議が多いもようだが、「理解が十分でない」として継続審査を求める声も。水産加工業者は「既に風評被害は起き、議論が長引くほど深刻になる」と指摘する。
 「私たち漁民は死ぬまでこの仕事をやるんですよ。(調査は)簡単な問題じゃない」「取り組みが無になってしまう」。5月下旬、同市上対馬町の同町漁協。青壮年部員らと市議5人との意見交換会で、複数の漁業者が語気を強めた。
 選定の第1段階となる文献調査(2年程度)の推進派市議は、最大20億円とされる交付金を地域活性化に生かしたいと説明。漁業者が「『棚からぼた餅』的な考え方ではなく、頭を絞って他の方策を考えてほしい」と迫る一幕もあった。
 漁業は同市の基幹産業の一つ。産業別人口(2020年)は約14%を占める。約2千人が一本釣りや定置網、はえ縄漁などに従事。イカやアナゴ、アカムツ、マグロ、アマダイなどが代表的品目として知られる。
 同漁協青壮年部などでつくる対馬地区漁協青壮年部連絡協議会は調査に反対する請願書を提出。最終処分場の安全性や建設による環境破壊、漁業や観光業などへの影響を懸念する。藤原圭一部長(46)は「子どもたちが対馬出身と言ったら、『核のごみの島ね』と言われる場所にはしたくない。次世代のことも真剣に考え反対している」と話す。
 対馬中部・豊玉町で、対馬産アナゴを販売する「対馬かまぼこ店」の島居孝廣代表(69)も「核のごみという名前でいいイメージは湧かない。せっかく新型コロナウイルスを乗り越えたところなのに」と嘆く。加盟する市水産加工連絡協議会も反対の請願書を出した。
 同協議会の上原正行会長(78)は経営に携わる水産加工会社に、文献調査の議論が表面化して以降、調査の動きが進んだ場合の取引中止を示唆する電話があったと明かす。風評被害が出始めたと受け止め、「『対馬産』という看板が消えてしまわないか心配。早期に決着してほしい」と話す。
 一方、建設系団体などは文献調査に伴う人口減少対策や雇用創出に期待し、調査応募を求める請願書を提出。市議会定例会は20日開会する。現時点で請願の紹介議員は反対派より、調査に前向きな市議が多いが、「文献調査への市民や議員の理解が十分進んでいない」として、特別委員会を設置して継続審査とすべきとの声も出ている。
 比田勝尚喜市長は5月下旬の定例記者会見で、島の産業や自然への影響に懸念を示した。一方、6月2日の反対派5団体との面会では態度を明確にせず「意見を受け止め、今後の検討材料にする」とした。
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