[2023_05_25_04]常陽、審査に事実上「合格」 「なぜ再稼働」地元懸念 茨城県知事「安全性など確認し判断」(東京新聞2023年5月25日)
 
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常陽、審査に事実上「合格」 「なぜ再稼働」地元懸念 茨城県知事「安全性など確認し判断」

 日本原子力研究開発機構が二〇二四年度末の運転再開を目指す高速実験炉「常陽」(茨城県大洗町)が二十四日、原子力規制委員会の審査に事実上「合格」したのを受け、地元では安全性を懸念する声が上がった。正式に審査を通った後、新規制基準を満たすために行われる工事の一部には、県と大洗町の事前了解が必要になる。(長崎高大、出来田敬司)
 常陽は、使用済み核燃料を再処理して取り出したプルトニウムを再利用する核燃料サイクルの中核施設で、消費した以上の核燃料を新たに得られるとされる高速増殖炉の実験炉。一九七七年に運転を始めた。
 装置のトラブルなどで二〇〇七年から停止していたが、次段階の原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)が一六年に廃炉になったことから、原型炉の次段階に当たる実証炉の開発に向けた実験などを担う施設として浮上した経緯がある。
 岸田政権が脱炭素社会の実現に向けて昨年末に策定した基本方針では、既存の原発(軽水炉)の再稼働や新増設に加え、高速炉を含む「次世代革新炉」の開発推進が掲げられた。

 ◆サイクルは頓挫

 「着工から半世紀以上経過し、事故続きで十六年間も停止してきた常陽をなぜ再稼働するのか」。二十四日の規制委の会合をネット中継で見ていた日本原子力発電東海第二原発(東海村)差し止め訴訟原告団の川澄敏雄さん(74)=茨城町=はため息をついた。
 会合では、一部の委員からコンクリート劣化の可能性に関する指摘もあった。川澄さんは「施設全般の老朽化が進んでいることは否めない。再稼働を断念して廃炉に進み、危険な廃棄物の安全な管理に注力すべきだ」と訴えた。
 大洗町の元会社員高橋邦裕さん(73)は「核燃料サイクルの失敗はもんじゅの頓挫で明らか。今さら常陽を動かすことには賛成できない」と批判。「常陽は(炉心冷却に爆発のリスクがある)ナトリウムを使うため管理が難しい。他の原子力施設とは違った危険性がある」とも指摘した。
 東海第二の再稼働阻止を目指す市民団体「いばらき未来会議」代表の曽我日出夫さん(75)=笠間市=は「そもそも規制委の独立性が疑わしい。審査は初めから再稼働させるという『結論ありき』だったのでは」と疑問を投げかけた。

 ◆国は説明責任を

 県、大洗町、原子力機構の三者が締結する安全協定では、常陽の運転再開に当たって、原発のような事前同意は求められていない。ただ、規制委が新規制基準への適合を正式に判断した後、それに続く工事計画認可に基づき炉心や制御棒などの仕様を変更する工事を行う際には、県と町の事前了解が必要となる。
 大井川和彦知事は、事実上の審査「合格」を受けて「安全確保に万全を期すのはもちろんのこと、高速炉開発の意義やその必要性について、国民の理解が得られるよう国には説明責任を果たしてもらいたい」とのコメントを発表。事前了解については「県原子力安全対策委員会等で安全性や有効性を確認したうえで判断していく」とした。
 大洗町の国井豊町長は「常陽では、医療用アイソトープ(放射性同位体)を製造することでがん治療などへの活用が期待されている。住民の安全と安心が担保されていることを大前提に、安全協定に基づく事前了解について判断していく」とのコメントを出した。
 原子力機構は本紙の取材に「運転再開する場合、立地自治体には事前に十分に説明した上で、理解は求める方針」と説明した。
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