[2023_04_16_03]ドイツで「脱原発」が実現 稼働していた最後の原発3基が停止 (NHK2023年4月16日)
 
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ドイツで「脱原発」が実現 稼働していた最後の原発3基が停止

 2023年4月16日 18時03分
 国内すべての原子力発電所の停止を目指してきたドイツでは、15日、稼働していた最後の3基の原発が送電網から切り離され「脱原発」が実現しました。今後、再生可能エネルギーを柱に電力の安定供給を続けられるかなどが課題となります。
 ドイツは2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて当時のメルケル政権が「脱原発」の方針を打ち出し、17基の原発を段階的に停止してきました。
 「脱原発」の期限は去年末まででしたが、ウクライナに侵攻したロシアがドイツへの天然ガスの供給を大幅に削減したことで、エネルギー危機への懸念が強まり政府は稼働が続いていた最後の3基の原発について停止させる期限を4月15日まで延期していました。
 3基のそれぞれの事業者がいずれの原発も15日に発電のための稼働を終え、送電網から切り離されたことを明らかにし、「脱原発」が実現しました。
 南部のネッカーウェストハイム原発の近くでは「脱原発」を求めてきた市民団体などが集会を開き参加者は「原子力発電がついに終わる」と書かれた横断幕を掲げて喜んでいました。
 参加者たちは「原発の危険性がなくなりうれしい」とか、「何年も求めてきた『脱原発』が実現できてよかった」などと話していました。
 ただ、ドイツではエネルギーの確保が課題となる中、今月の世論調査で「脱原発」に反対と答えた人が59%で賛成の34%を大きく上回り、経済界からも懸念が示されています。
 今後は政府がさらなる拡大を目指す再生可能エネルギーを柱に電力の安定供給を続けられるかや高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」の処分などが課題となります。

 「脱原発」求めてきた市民団体 記念集会開き約500人集まる

 15日に停止した3基の原子力発電所のひとつネッカーウェストハイム原発の近くでは「脱原発」を求めてきた市民団体などが記念の集会を開き、およそ500人が集まりました。
 参加者たちは原発の停止を記念したカウントダウンをして、大きな歓声を上げていました。
 また「原子力発電がついに終わる」と書かれた横断幕なども掲げられていました。
 参加した20代の男性は「ドイツの原発が比較的安全であっても環境全体に大きな影響を与えるリスクは常にある。すべての原発の停止を本当に喜んでいる」と話していました。
 また、別の50代の男性は「何十年も続いた反原発運動でも原発のリスクをゼロにはできなかったので、喜びは格別だ」と話していました。
 一方、同じく15日には原発の利用の継続を求める市民団体が首都ベルリンの中心部で集会を開き、100人余りが参加して抗議の声を上げていました。
 参加した人たちは、供給が大幅に減ったロシア産の天然ガスを補うため石炭による発電を拡大させながら原発を停止するという政府の判断を批判していて、会場には「原発に賛成」などと書かれたオブジェも置かれていました。
 20代の女性は「いまはエネルギー危機で再生可能エネルギーでは現在の消費量をまかなえないのに、原発を停止するのは理解できない。しかも、石炭は多くの二酸化炭素を排出するが原発にはそれがない」と話していました。
 また、60代の女性は「原子力には未来があり、安全に設計されていれば恐れる必要はない。再生可能エネルギー、原子力のバランスが必要で、政府は考え直して欲しい」と訴えていました。

 ドイツの「脱原発」とは

 ドイツでは1961年に原発による発電が始まりましたが1970年代に原子力の利用に反対する市民運動が盛り上がりました。
 その運動のなかから環境政策を重視する政党、緑の党が誕生。
 緑の党は、1998年に発足したシュレーダー政権に連立与党として参加し、この政権のもと、国内の原発を2020年ごろまでにすべて停止する法律がつくられました。
 その後、首相に就任したメルケル氏は当初は原発の利用に前向きで運転期間の延長に踏み切ります。
 しかし、2011年3月の東京電力福島第1原子力発電所の事故を受けて姿勢を転換しました。
 17基あった原発を順次停止し、2022年末までにすべて停止する「脱原発」の判断を下します。
 ドイツの発電事業者などでつくる連邦エネルギー・水道事業連合会によりますと、発電に占める原子力の割合は2000年は30%で、石炭に次ぐ多さでしたが、去年、2022年には6%と大幅に減っています。
 これに対し、再生可能エネルギーは2000年は7%でしたが2022年には45%に拡大し、最も多くなっています。
 しかし、去年、ウクライナへの侵攻を続けるロシアが、ドイツ向けの天然ガスの供給を大幅に削減すると、エネルギー危機への懸念から原発を使い続けるべきという声が経済界や与党の一部からも上がりました。
 こうした中、緑の党も参加するショルツ政権は、去年9月、「脱原発」の期限をことし4月15日まで延期しました。
 ドイツは減少したロシア産ガスの代わりとしてLNG=液化天然ガスの輸入を増加させたり、石炭での発電を拡大させたりしてきました。
 こうした対策を踏まえ「脱原発」を担当するレムケ環境相は、先月の記者会見で「エネルギーの供給は安定している」として、原発を停止してもエネルギー危機は起きないとして予定どおり原発を停止する方針を示しました。
 レムケ環境相は、原発には事故のリスクに加え、ウクライナのザポリージャ原発のように攻撃にさらされる危険性も浮き彫りになったとして「原子力はいまも、これからもリスクのある技術であり続ける。そのリスクはドイツのような技術力の高い国でさえ制御できない」と述べ、「脱原発」の意義を強調しました。

 ドイツ ロシアが天然ガス供給を大幅削減でガスや電気料金 高騰

 ドイツでは、ロシアが、去年、ドイツ向けの天然ガスの供給を大幅に削減したことで、ガスや電気の料金が高騰しました。
 懸念されたエネルギー不足は表面化していませんが、企業からは安定供給の面から「脱原発」に懸念も出ています。
 このうち南部バーデン・ビュルテンベルク州に本社がある車のエンジンなどに使う部品を製造する企業は、鉄などの加工に欠かせないガスと電気の料金が去年、前の年と比べおよそ50%値上がりしたということです。
 シュテファン・ウォルフ社長は「残っている3基の原発を止めるとエネルギー価格が上昇すると思う。二酸化炭素の排出がゼロで、いまも利用できる原発を止めるのは大きな間違いだ」と話し、反対の立場を示しています。
 そして「ドイツ政府がエネルギー価格を下げることができなければ多くの企業が生産拠点をよりエネルギー価格が安い国へ移してしまう」と強調しました。
 また、ドイツ商工会議所連合会は、今月11日、「ガス価格は下がったもののエネルギー価格はほとんどの企業にとって高止まりしている。安定供給という問題はまだ解決されていない」などとする会長のコメントをホームページに掲載しドイツ企業の競争力を維持するためとして原発の利用を続けるよう訴えています。

 「脱原発」後の課題は

 再生可能エネルギーの研究が専門で、政府のアドバイザーも務めるレーゲンスブルク大学のシュテルナー教授は「原発は発電のわずかな割合しか占めておらず、脱原発が電気料金や供給に影響を与えることはない。産業を守るためにすべきことは風力や太陽光の拡大で、蓄電の技術も加わればとても安い電力が保証できる」と話しています。
 そして「今後は電力がエネルギー供給の核になる」とも話し、EV=電気自動車の普及などでいっそう電力が必要になるため、再生可能エネルギーを着実に拡大できるかが課題だと指摘します。
 ドイツ政府は去年、2030年に電力消費量に占める再生可能エネルギーの割合を80%にする方針を新たに掲げています。
 これについてケルン大学のエネルギー経済研究所が、今後、毎年、追加に必要となる電力を試算したところ
 ▽陸上風力は8.4ギガワット、
 ▽太陽光は17.4ギガワットで、2021年までの10年間のペースと比べ
 ▽風力はおよそ3倍
 ▽太陽光は4倍余り拡大させる必要があり、「実現できるか不透明だ」としています。

 ドイツでは再生可能エネルギーの電力を運ぶ新たな送電線や風力発電所の建設の許認可に時間がかかっているほか、住民の反対も課題となっていて、シュテルナー教授は、「新型コロナやウクライナでの戦争に対応した時のように風力や太陽光でも同じ早さの法律が必要だ」と話し、政府が対応に本腰を入れなければ安定した電力の供給が今後、難しくなるとの見方を示しています。
 また、長期にわたる原発の廃炉作業に加えて発電にともなって発生した高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」の処分地も決まっておらず、政府は「原子力の安全に関わる課題は何十年も続く」としています。
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