[2023_03_31_04]電力カルテル 業界団体 不正の温床 訴訟 いばらの道 料金値上げ 逆風(東奥日報2023年3月31日)
 
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電力カルテル 業界団体 不正の温床 訴訟 いばらの道 料金値上げ 逆風

 公正取引委員会が中部、中国、九州の大手電力3社の行政処分で、業界団体「電気事業連合会」が不正の温床になったと指摘した。中部電は取り消しを求めて訴訟すると表明したが、関西電力が違反を認めて処分を免れる中、公取委の判断を覆すには、いばらの道が待ち受ける。顧客情報の不正閲覧問題も加わって業界の信用は地に落ち、複数の大手が計画する電気料金の抜本値上げには逆風が吹く。
 電事連の池辺和弘会長(九州電力社長)は30日午前、公取委庁舎内の会議室を訪れ、公取委幹部から再発防止に向けた周知徹底を求める申し入れを受けた。池辺氏は終始緊張した面持ち。書面を手渡した幹部に小声で一言発しただけで、部屋を後にした。
 公取委がカルテルの温床とみなした電事連は、大手電力10社を会員とする。1952年の設立で、電力に関する啓発活動と調査、原発や核燃料サイクルの推進を担う。ロビー活動を展開し、政界や中央官庁に影響力を持つとされる。
 「大手各社から優秀な人材が集まるインナーサークルだ」。関係者は電事連をこう評する。幹部を含め、ほとんどを大手の出向者が占める。
 池辺氏は過去の記者会見で「(電事連は)価格や営業戦略などの競争情報は取り扱わない。カルテルは全く関与していない」と強調してきた。言葉通りに直接の関与はなかったが、公取委は「電事連の会合の機会を利用したり、出向経験者同士で連絡を取り合ったりして独禁法違反の疑いがある情報交換が実施された」と断じ、電事連の人脈が利用された実態が明らかになった。
 自社や大手同士の既得権益を優先する姿勢は、電気料金の高止まりという形で利用者に悪影響を及ぼした可能性がある。関係者によると、カルテルが確認された2018年以降の関西地方の卸電力価格は3割程度下落する一方で、関電の販売価格は微増だったという。
 関電と中部電、関電と中国電のそれぞれのカルテルでは、他社の営業エリアで顧客に見積もりを提示する場合に「お互い、そっとしておきましょう」などと示し合わせ、顧客を奪わないように、あえて高い価格を出す悪質な行為も確認された。
 愛知県などに工場を持つ岡山県内の自動車部品メーカーの経営者は「節電のために効率的な工場稼働やシフトを意識してきたのが、ばからしい」と憤りを隠さない。
 処分を不服として提訴すると即日発表した中部電に他社も続く可能性があるが、公取委は「訴訟は覚悟の上での処分」(幹部)と自信を示す。カルテルの相手方の関電が全面的に認めているとみられることからも、取り消しを認める判決を得るのは難しそうだ。
 カルテルのほかに大手7社が競合する新電力の顧客情報を不正閲覧する不祥事も起き、中国電を含む7社が国に申請した4月以降の抜本値上げが、しばらく棚上げされる可能性も出てきた。
 ウクライナ危機などによる燃料費の高騰で業績不振に陥った大手が値上げを急ぐ中、岸田政権は審査の厳格化を打ち出した。審査に影響力を持つ消費者庁も、一連の不正による料金への影響の検証がなければ「協議を受けることができない」と訴え始めた。
 23年3月期の連結純損益予想は10社中9社が赤字を見通す。公取委から納付を命じられた課徴金も重荷となり、1740億円もの純損失を見込む中国電は、滝本夏彦社長が6月の株主総会を経て引責辞任すると発表。新たな経営陣の下で再建を目指すが、値上げの実施が見通せない中で経営の立て直しは容易ではない。
 値上げを申請している別の大手電力の幹部は「ここまで不祥事が続くとは想定しなかった。これほど世間からの反発を感じたことはない」と声を落とした。
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