[2023_03_17_07]福島第一原発事故 12年目の“新事実”(NHK2023年3月17日)
 
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福島第一原発事故 12年目の“新事実”

 「本店の方から(ドライウェル)スプレイをやめろという話だったんです。それで結局、それに折れてというか、ではやめろという話をしたと思います。」
 これは事故当時、東京電力・福島第一原子力発電所の所長だった故・吉田昌郎氏に対する政府の事故調査・検証委員会での聞き取りの、いわゆる「吉田調書」に記録されている証言である。
 福島第一原発事故を巡っては、海水注入、撤退問題などいくつかの出来事が公的な事故調査委員会で集中的に検証され、社会に伝えられてきた。しかし、私たちNHKメルトダウン取材班が今回注目したのは、「スプレイ」を巡る事故対応。これは公的な事故調査委員会がほとんど検証してこなかった、いわば調査の盲点ともいえる問題点である。
 事故から12年、ほとんど語られることがなくなった福島第一原発事故の検証。
 しかし、事故当時のデータや、テレビ会議の会話記録、そしてこの数年の調査で明らかになってきた格納容器内部の状況など“点と点”を丹念につなぎ合わせることで、事故12年目の“新事実”が浮かび上がって来た。
(NHKスペシャル メルトダウン取材班)

 3号機 唯一行われた“ドライウェルスプレイ”
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 私たちが注目したのは3月13日、3号機を巡る対応だ。
 3月11日の津波に襲われた後、最初に核燃料が溶け落ちるメルトダウンをおこし、水素爆発したのは1号機。次に危機に陥ったのが3号機だった。3月13日未明、冷却装置が停止。この後、現場が懸念したのは、メルトダウン、そして格納容器が破壊され放射性物質が大量に放出される事態だった。当時、3号機の原子炉の圧力は高く、消防車では注水できない状態。そこで運転員たちが行ったのは、格納容器を冷やす「ドライウェルスプレイ」という対応だった。

「ドライウェル」(上の部分)と「サプレッションチェンバー」(下の部分)に分かれている格納容器

 格納容器はフラスコ型の「ドライウェル」とドーナツ状の「サプレッションチェンバー(通称サプチャン)」に分かれている。
 東京電力の報告書には「ドライウェルの圧力上昇を抑えるためにはスプレイは絶対必要なんだ!消火ポンプでどの程度効果があるか分からないけど,今はそれしかない。誰かがやらなければいけないんだ。」とスプレイに切実な期待をかけていたことが、現場の声として記録されている。ディーゼルで動く消火ポンプを使い、ドライウェルを冷やすことで圧力の上昇を抑え、破壊を防ぐ。これが運転員たちの狙いだった。

 スプレイを行うためには、覚悟が必要だった。
 3号機は津波によってほとんどの電源を失っていた。スプレイを実施するために、必要なバルブは中央制御室から遠隔で操作することは出来ない。そのため、格納容器の間近にあるバルブを直接操作しなくてはならなかった。現場に行った担当者の証言によれば、「高温、高圧の蒸気が原子炉からサプチャンに流れ、その圧力で巨大な格納容器が揺れていた」という。「蒸気が噴き出したら無事ではいられないかもしれない」。担当者は覚悟を決め、放射線量が上昇する原子炉建屋で作業にあたっていた。バルブを開けるため、高温になっていたサプチャンに足をかける。バルブは熱く、長くは握っていられない。そして、作業している間に長靴の底は熱で溶けた。

 3月13日午前7時39分、いくつかのバルブを操作することで、ドライウェルスプレイが実施できた。それまで上昇傾向が続いていた格納容器の圧力も狙い通り横ばいになった。しかし、開始からわずか20分後、テレビ会議を通じて東京電力本店から福島第一原発に連絡が入る。

 ドライウェルスプレイの停止を示唆するものだった。その会話がテレビ会議に残されていた。
東京電力のテレビ会議システム 本店と福島第一など連絡を取り合っていた

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 3月13日午前7時57分
 東京電力本店
 「いま本省(国)からなんですけども、なるべくね、早いうちにベント始めて、水素とかそういったのを蓄積避けたいから、どっちかというと早くラプチャーを吹かしたいと思ってるんだけども、ドライウェルスプレイって、あんまりそういうことから考えても意味ないんじゃないかって言われてるんだけど。1Fさーん?」
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 この会話には複雑な情報が含まれている。まず冒頭の「本省からなんですけども」という部分、当時、東京電力本店は常に規制官庁である経済産業省と連絡を取り合っていた。本店の担当者は「国は、ベントを実施し、水素も排出したい」という意向がある旨を伝えている。この会話の前日、3月12日に起こった1号機の水素爆発。3号機では1号機同様、水素爆発を起こす恐れがありそれを避けたいという共通認識があった。建屋の外で注水や電源復旧作業にあたっていた多くの人たちの安全を考えれば、福島第一原発でも水素爆発への対応を優先するという状況も理解できる。

ベントの配管に取り付けられたラプチャーディスク

 ベントはスプレイ同様、格納容器を守るための操作である。しかし、それには「ラプチャー(ディスク)」という聞き慣れない装置を破壊する必要があった。「ラプチャーディスク」は、通常時に、格納容器から放射性物質が漏れないよう、ベントの配管に取り付けられ、蓋をする役割を担っている。格納容器の圧力がおよそ5気圧を超えないと破れず、ベントが出来ない。
 ところが当時、3号機はスプレイによって冷却されていたため圧力は5気圧以下にとどまっていた。つまり、ベントを行うためには格納容器を冷やし圧力を下げる効果がある「ドライウェルスプレイ」を停止するしかなかった。
 格納容器を守るという目的は同じでも、“同時には両立しない”という矛盾を抱える「ドライウェルスプレイ」と「ベント」。現場は選択を迫られていた。

 テレビ会議で、スプレイによってドライウェルの圧力上昇が落ち着いたことが福島第一原発から東京電力本店に告げられる。それに対し、本店は「止められないのか?」と問いかける。福島第一原発の担当者が即答できずにいると、所長の吉田は「ドライウェルスプレイをやめられないのかっていうのが、今の本店の質問なんだけども」と本店の質問を繰り返す。そして、福島第一原発の担当者もスプレイを止めることに合意した。吉田もこれに対し、テレビ会議では、反対の意を示していない。
 運転員たちがスプレイを止める作業を行ったのは、開始からわずか1時間後のことだった。

 記事の冒頭で紹介した“吉田調書”の「本店の方から(ドライウェル)スプレイをやめろという話だったんです。それで結局、それに折れてというか、ではやめろという話をしたと思います。」という証言はこの局面を振り返ってのことだった。

 スプレイが持つもう一つの役割
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 私たちは専門家とともに、東京電力の事故時運転操作手順書を読み解くことにした。この手順書は当初東京電力は知的財産の保護などを理由に公表を拒んでいたが、国の原子力安全・保安院は、法律に基づいて提出させた手順書の一部を2011年10月から順次公開したものである。

福島第一原発3号機の事故時運転操作手順書

 「3号機事故時運転操作手順書(シビアアクシデント)」の中に、格納容器を冷やし圧力を下げるほかに、もう一つドライウェルスプレイの役割が記されていた。原子炉の下、格納容器の床の部分であるペデスタルと呼ばれる場所に水を注ぐことである。「RPV(原子炉圧力容器)破損が確認された場合は本操作を実施する」と定められている。そして、「ポンプの台数の関係で流量が不足し、(中略)代替注水が平衡操作で行えない場合は以下の優先順位とする。1,格納容器 2,ペデスタル 3,原子炉」。
 メルトダウンが進み、核燃料が原子炉の底を突き破るメルトスルー。そうなると、核燃料は格納容器の床に溶け落ちる。懸念されるのは、その熱による圧力上昇によって格納容器の破壊されること、さらに高温の核燃料が床に広がり格納容器に直接接触することで、格納容器そのものが破壊される「シェルアタック」と言われる現象がおきてしまうことである。
 ドライウェルスプレイによって格納容器の床(ペデスタル)に注水することは、メルトスルーした「溶融炉心(デブリ)」の冷却する重要な役割を担っていたのである。

吉田所長が指揮をとった現地対策本部 免震重要棟

 では、なぜベントとスプレイの二者択一を迫られたとき、本店や福島第一では、「スプレイ」を選択しなかったのか。
 東京電力のテレビ会議を読み解くと、例えば、メルトダウンした3号機の注水を巡っては、原子炉が満水になる可能性も会話の中では交わされていた。

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3月14日午前3時36分

武藤副社長 あれだな、ベッセル、満水になってもいい位の量入れてるってことだね。吉田所長 そうなんですよ。
武藤副社長 ちゅうことは何なの。何が起きてんだ。その溢水しているってことか、どっかから。
吉田所長 1号機と同じように炉水位が上がってませんから、注入してもね。ということは、どっかでバイパスフローがある可能性が高いということですね。
武藤副社長 バイパスフローって、どっか横抜けてってるってこと?
吉田所長 そう、そう、そう、そう、そう。うん。
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 原発事故の進展を詳細にシミュレーションできる「SAMPSON」の解析によればこの会話が交わされるおよそ6時間前、3月13日午後9時58分には3号機では原子炉の底が破れるメルトスルーが起こっていた。しかし、ほとんどのパラメーターが失われる中、メルトスルーに対する共通した問題意識を当事者たちが持つことは困難だった。

事故解析コード SAMPSONの解析によれば3月13日午後9時58分に3号機でメルトスルーが発生


ドライウェルスプレイの停止による影響は
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 では、スプレイを止めたことによって何か悪影響が出たのか。私たちは今回、事故解析が専門の内藤正則に依頼し、様々な解析を行ってもらった。内藤は、福島第一原発事故後、OECD/NEA(経済協力開発機構/原子力機関)で行われた国際的な事故解析プロジェクトをリードするほど、事故解析の分野では世界で知られる専門家である。内藤に行ってもらった解析の一つが事故当時の対応通りドライウェルスプレイを停止した場合と、その後も続けた場合の違いである。続けた場合の注水量に設定したのは東京電力の手順書にある「メルトスルー前に先行して行う70トンの注水」である。


スプレイを続けていれば3号機の水素爆発を緩和できる可能性が

 当初、内藤もこのスプレイを継続することでの効果に懐疑的なところもあった。しかし、結果は意外なものだった。水素爆発を引き起こす水素の発生量を減らすことが出来るというのだ。
 スプレイを停止した場合の原子炉からの水素の発生量はおよそ800キロ、一方でスプレイを継続していた場合水素の発生量はそれより25%程度少ない、600キロまで抑えられるという解析結果となった。
 内藤は「ドライウェルスプレイによって原子炉を外側から冷やすことで、結果として核燃料の温度上昇を抑制する効果がある。すると、高温になることで活性化する水ジルコニウム反応が抑えられ、水素の発生量が減るという効果があることが示唆された」と分析する。さらに、格納容器内にも床から1メートル程度水を張ることが出来、メルトスルーした核燃料や格納容器そのものを冷やす効果も期待できるという。スプレイを継続することは事故の悪化をくいとめる可能性があったのだ。

スプレイ問題を検証する
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 この「スプレイ停止」の事故対応を巡って取材班は専門家とともに何が問題だったのか、検証を行った。
 真っ先に指摘されたのが設計の問題だった。
 日本原子力学会内に設置された福島第一原子力発電所廃炉検討委員会の委員長・宮野廣(元東芝 技師長)は、福島第一原発の判断として行っていたスプレイの継続を支持した。

原発メーカー東芝の元技師長で設計の専門家 宮野廣氏

 「あえてスプレイを止めて、ラプチャーディスクを壊すために内圧を上げるか、それは基本的に“ない“と思う。要するに、スプレーによって冷却され圧も下がっている。だったら設計上はスプレイを維持する」

 議論に参加した内藤もこの意見に同意した。
 実は内藤は、事故発生した当日からドライウェルスプレイを有効に使うべきだという議論を専門家の間で行っていたという。

 「原子炉を外側から冷やし、炉心の溶融を少しはマイルドに出来るのではというようなことを期待して、ドライウェルスプレイをちゃんとやるべきだという議論はした。そう考えると、この東京電力の手順書は、正しいこと言っていると思う。ドライウェルスプレイによって格納容器の床に水がたまる、そうするとそこでメルトスルーした溶融炉心を冷やし固めることで、広げない役割を果たせる。そう考えると、スプレイを止めてまで、ベントをとにかく早くやるっていう発想はなかなか出てこない」

福島第一原発事故後 事故解析の国際的なプロジェクトをリードしてきた内藤正則氏

 原発の設計を担ってきたメーカーの幹部だった宮野は、ベントに関して、事故時の対応を考慮した設計になっていなかったことを問題視した。

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 「福島第一原発事故の前、日本では『放射性物質をもらしちゃいけない』という考えが基本にあり、事故が起きる、そしてベントをするという考えは優先されていなかった。だから、高い圧力でないと破れないラプチャーディスクが設置されていた。そこに問題があった。『事故が起きない』という発想ではなく、『事故が起きたときにどう対応できるか』という発想に設計を変えなければいけない」
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 ドライウェルスプレイを止める原因の一つとなったラプチャーディスク。
 事故後、各地の原発では事故の際のベントを妨げるとして、ラプチャーディスクそのものを撤去した。


意思決定をめぐる問題
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福島第一原発の吉田昌郎所長 事故対応は現場の所長が責任者として対応にあたるはずだった

 スプレイを巡る対応で、専門家たちが最も厳しく指摘したのは、国や東京電力本店による意思決定への介入だった。事故の際、本来は福島第一原発の責任者である吉田所長の判断が尊重され、本店は支援を行うという役割分担になっている。東京電力の事故調査報告書においても「事故拡大防止に必要な運転上の措置等の実施は、原子力防災管理者である発電所長(今回の事故では吉田所長)に権限があり、本店緊急時対策本部の本部長(社長)は発電所緊急時対策本部への人員や資機材等の支援にあたる。」と記載されている。
 しかし、スプレイをめぐるやりとりを見ると、まったくそうなってはいなかった。
 テレビ会議のやりとりをみると、東京電力本店の小森常務が福島第一原発に対し、「止めた方がいいな」と発言。それに従う形でスプレイを停止している。しかし、東京電力本店の発言の冒頭に「本省(国)」からの意見として伝えられたことにあるように、東京電力と経済産業省や官邸には様々な連絡ルートがあり、また時には官邸にいた武黒フェローや原子力安全委員長だった班目氏から吉田所長に直接問い合わせや指示が入ることもあった。
 内藤は、本店に国が意見を伝えることで、実質的に“介入”が出来る状態だった原子力事故における体制と権限に問題があったと指摘する。

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 「東京電力本店が福島第一に対しいろんなこと言った、その背景には、本店の意見を左右した人がいるわけで、その人たちは事故時の手順書を知るはずもないし、その人たちに手順書を知っておくべきだって言ったって無理な話です。だからそういう人たちに、指示をしてもいいという権限を与えたらいけない」
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1号機でベントが進まなかった3月12日 菅総理大臣は福島第一原発に向かった

 福島第一原発では様々な場面で“国”の介入があった。1号機で、菅総理大臣(当時)が福島第一原子力発電所を訪れ吉田所長に「ベントを急ぐ」よう直接迫った場面、班目原子力安全委員長が2号機の局面で「ベントよりSR弁を優先すべき」と吉田所長に直接電話で意見を伝えた場面。これまで私たちの取材で検証してきたポイントに加え、今回、また新たな“介入”についての問題が浮かび上がった。

「原則、国は介入しない」と答えた原子力規制委員会 更田豊志参事(前委員長)

 今後、国は原子力災害に対し、どのように対応しようとしているのか。電力会社の事故対応を監督する原子力規制委員会。発足してから10年にわたって委員や委員長と要職を務めてきた更田豊志参事に事故対応における国の役割を問うた。
 まず更田が福島第一原発事故の際に国の介入を招いた背景として、国、電力会社それぞれの準備や能力が不足していた点を指摘した。

 「福島第一原発事故の前、非常に厳しい条件での事故の対策というのは事業者(電力会社)の自主対策に委ねられていて、訓練も十分には行われていなかった。だから事業者も不慣れだったし、国はもっと準備ができてない状況だった。それで事業者が事故の状況や対応について、うまく説明できない部分もあったから国が介入してしまった面もある」

 その上で、国としても事故の教訓を生かす取り組みを続けていると語った。

 「福島第一原発事故の教訓を受けて訓練を重ねて、また対処するための準備を整えている。原則は規制当局も含めてですけど国は介入しない。福島第一原発原子力発電所事故のときには国が介入した結果、混乱を招いた。現場を最もよく知る事業者が責任を持って対処に当たるっていうのが基本的な原則で、これは今も訓練等の場で確認されている」

ドライウェルスプレイ停止するも 守られた格納容器の謎
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 わずか1時間でドライウェルスプレイを止めた3号機。その後、原子炉から2000℃を越える高温の核燃料が格納容器の床に溶け落ち、圧力の上昇などで格納容器が破壊される恐れがあった。
 しかし、3号機の格納容器内部にロボットを入れる調査などで見えてきたのは意外な事実。1号機2号機に比べて内部にたまっている水位が最も高かったのだ。1号機では2.8メートル、2号機では60センチ程度だった水位が、3号機では6.3メートル。これは他の号機に比べ、3号機の格納容器が「健全性を維持」していたことを意味する。

3号機ではサプレッションチャンバーの水が“ドライウェル”に逆流しデブリを冷やした可能性が浮上

 スプレイを停止し、格納容器の十分な冷却が出来なかった3号機の健全性が保たれているのか。
 複数の専門家を取材すると、関係者の間である仮説が検討されていることがわかってきた。
 「サプチャンからドライウェルに水が逆流し、核燃料を冷やした」という本来ありえないメカニズムである。
 専門家がこのメカニズムを検討するきっかけになったのは、3号機のドライウェルとサプチャンの圧力差である。ドライウェルとサプチャンはつながっているため、設計上は大きな圧力差が生じない。しかし、3号機の圧力の変動を見ると、ドライウェルの圧力が高い時間、逆にサプチャンの圧力が高い時間、さらにまたドライウェルの圧力が上回る時間と、双方の圧力に差が生じる現象が起こっていた。
 この現象を説明するために検討されていたのがサプチャンからの水の逆流である。ドライウェルの水蒸気が隙間などから漏れることで圧力が低下。するとサプチャンにたまった水がドライウェルに逆流、床にたまるという現象だ。この格納容器の床には溶け落ちた核燃料があり、それと水が触れることで冷却と同時にまた水蒸気が発生。ドライウェル側の圧力をまた上昇させるというメカニズムだ。

 東京電力もこのメカニズムについて検証していた。福島第一原発事故での「未解明事項」を調査・検討する最新の報告を昨年11月に公表。サプチャンからドライウェルに水が逆流した現象が起こった可能性を初めて認め、その結果として核燃料デブリを冷やし格納容器の健全性が維持されたと分析している。
 しかし、この逆流現象は決して意図的に行ったものではない。いわば偶然の現象だった。
 人間の意図せぬところで働いた格納容器の冷却。原発を制御するために不可欠な水をコントロールすることの難しさもあらわになった。

内藤「この現象は、人が意図して逆流起こさせたわけじゃない。それを仮に自然現象といってしまったならば、じゃあこの自然現象は常に期待していいのか。そんなことはないと思う」

宮野「たまたま起きたことで、もしそれを狙うんだったらそういう仕組みを作らないといけない」


長く続く検証
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 未だに2万人を越える人が避難生活を余儀なくされるなど、深い爪痕を残す福島第一原発事故。
 この事故の教訓をどのように抽出し、後世に伝え、残していくのか。
 一つは、廃炉のための調査が進むことで見えてくる格納容器内部の状況など事故の実態から、当時の対応を検証することである。事故調査が集中的に行われてきた2011年から2012年にかけては事態が明らかになっておらず、その結果見落とされてきた検証の“新たな視点”が浮かび上がってくる。まさに3号機のスプレイを巡る対応はそれにあたる。

2011年3月 事故直後の福島第一原発

 長い時間をかけて少しずつ明らかになる格納容器や原子炉内部の状況。一つ一つのデータに目をこらし、これまで残されてきた膨大な記録と照らし合わせ、検証を続ける。それは国や電力会社だけでなく、わたしたちメディアの使命でもある。検証はまだ終わっていない。

NHKスペシャル メルトダウン File.8 「後編 事故12年目の“新事実”
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