[2023_02_21_10]小型モジュール原子炉(SMR)を導入する意味はどこにもない (下) 「電力を安定供給できるわけでもない」 「早く建設できるとは限らない」 「使用済燃料問題は何も解決しない」 「SMRは軍事技術である」 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ2023年2月21日)
 
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小型モジュール原子炉(SMR)を導入する意味はどこにもない (下) 「電力を安定供給できるわけでもない」 「早く建設できるとは限らない」 「使用済燃料問題は何も解決しない」 「SMRは軍事技術である」 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

    (上)は、2/15【TMM:No4696】に掲載
◎ SMRだけで遠隔地や小規模の国に電力を安定供給できるわけでもない

 小型原子炉、例えば30万kW級の原発の場合、建設にかかる費用、運転やメンテナンスにかかる費用は、100万kWの3分の1で済むわけではない。
 8.8万kWのモジュールをいくつも内蔵して稼働させるSMRの場合、一つ一つのモジュールには通常の原子炉と同様の安全基準や安全設備が必要なので、その分の費用がかかる。
 そのうえ運転中の原子炉は、遠隔地や小規模国の変動する電力消費量に合わせて出力調整をしなければならず、SMRだけではいかなる地域の電力も安定供給はできないため、安定化用の予備電源や補完電源設備が必要になる。
 すなわち、安定供給を維持するためには、SMRと同程度の規模で、火力などの代替発電システムが必須であり、その費用をSMRの導入・維持管理費に計上すると、建設するべき設備は、SMR+火力または水力等調整可能な電源となる。

◎ 軽水炉より早く建設できるとは限らない

 原発の建設のための審査には、立地選定・評価、環境影響評価、運転した場合の供給計画などを立てなければならず、これらの時間はSMRであっても変わらない。
 また、原発の全体構造を支える基礎工事や、冷却システムを海水冷却とした場合の海水系の設計建設は軽水炉と変わらない。
 SMR建設が軽水炉より短くて済む可能性があるのは、既に建設されていた原発の設備を、その原発が廃炉になった場合に流用できるようなケースくらいであるが、これは建設前の調査等、立地に関わる時間が短縮できるかもしれない程度である。
 軽水炉の場合の圧力容器や格納容器、蒸気発生器や再循環系の取付などのところは短縮できるとしても、SMR固有の設備の建設、設置に関わる時間が明確ではないため、早くなる保証はない。

◎ 使用済燃料問題は何も解決しない

 原発である以上、使用済燃料の問題は残り続ける。
 この燃料体はおそらく軽水炉のそれよりも長期間、強制的な冷却システムで管理しなければ危険である。
 SMRで長所とされる、燃料交換を少なくする運用をするには、濃縮ウランの濃縮度を現在の4%程度から更に上げる必要がある。
 すると、体積当たりの発熱量が大きくなり、使用済燃料プールで長期間保管し続ける必要がある。これを安全に貯蔵する方法は、現在のところ確立していない。
 高温の燃料を長時間保管する技術は、リスクのあるプール保管以外に現在は存在しない。安全に貯蔵管理する技術がないところにはSMRを建設できない。

◎ SMRは軍事技術である

 現在、世界で最も多くの小型原子炉を運用しているのは米軍である。
 原子力空母、原子力潜水艦、原子力巡洋艦など、数百の原子炉を建設し、運用してきた。
 しかしその多くは解体することも困難で、ハンフォードの処分場に貯蔵されたままである。
 ソ連や米国では、原子炉部分をそのままの状態で投棄するか、あるいは潜水艦に穴を開けて沈ませるなどの海洋投棄を行ったものさえあった。
 現在、米国ではハンフォードの廃棄物処分場に140基を遙かに超える原子力艦船の原子炉がそのまま密封管理されている。
 SMRは高効率を目指せば高濃縮(20%弱)ウランを使わなければならない。このような高濃縮ウランは、現在は軍事用として扱われる。
 SMRはその構造からも、軍事転用をされると原子力動力艦のエンジン開発技術に直結するので、核拡散問題が発生する。
 実際に、現在原子力艦船を運用している国は核兵器国に限られており、非核国ではドイツと日本が原子力船を建造し運用試験を行ったが、いずれも失敗に終わっている。
 各国がSMR技術を世界中に輸出すれば、そのまま核武装を含む核の軍事利用へのハードルを大きく下げると共に、地域の緊張を激化させる。
 日本でも原子力潜水艦を保有したがっている政党が存在していることを考えると、極めて危険な導入への布石として、政府民間一体となったSMR研究を進めることが考えられる。
 「原子力の平和利用」などは、いまや核戦力保有の「イチジクの葉」程度の意味しかない。
 (「脱原発東電株主運動ニュース」No.316 2023年2月5日発行より了承を得て転載)
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