[2023_02_15_09]小型モジュール原子炉(SMR)を導入する意味はどこにもない (上) 「安全とはいえない」「低コストということはない」 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ2023年2月15日)
 
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小型モジュール原子炉(SMR)を導入する意味はどこにもない (上) 「安全とはいえない」「低コストということはない」 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

 
◎ 小型モジュール原子炉「SMR」とは何か

 突然降って湧いたように始まった「原発の利活用政策」では、「既設原発の再稼働推進」「老朽炉の使い倒し」「革新炉の開発建設」「核燃料サイクルの取組強化」が目標とされている。
 このうち革新軽水炉の一つとして小型モジュール原子炉(SMR)の開発と導入がある。
 従来型原発の使い倒しを推進しようとする現政権の運転年数延長に対して、さらにその先の2030年代の実用化を目指すとされるSMRとは、どのようなものなのか。その問題点を抽出してよく考えてみよう。

◎ 従来軽水炉より安全とはいえない

 原子炉等規制法などが定める規制基準に基づいて、従来型の原子炉と同程度の水準で安全設計についての基準をクリアしなければならず、軽水炉よりも構造が簡単とか、動力がなくても冷却が可能としても、それが実証されているかを、厳格な安全審査で確認しなければならない。
 軽水炉の場合は、一定の実績があるから標準的な対応策も設計基準としてできているが、SMRを商業規模で使用した経験はないため、根拠となる実証試験結果や評価試験結果を示さなければならない。言うまでもなく机上の空論では審査は通らない。
 大半の稼働中の原子炉には既に、一定の受動的安全機能が整備されていて、管理や運転に多くの注意が払われているはずだ。
 それでも事故は起きるとして安全基準が定められていることは周知の通り。
 それを凌駕する安全性があるとの主張には、実証を積み重ねなければ信頼性は生まれないことを、SMRを主張する人々は無視している。

◎ 量産型工場で製造できるから低コストということはない

 SMRにおいて軽水炉を凌駕する経済性を持つためには、規模の経済が働かなければならない。
 製造工場で同じものを何百、何千と製造しなければならず、さらに何百、何千という将来の市場規模が予測されなければならない。
 しかし現状のSMRは、十数種類もの異なる規格と、その中で競合する多くの設計が乱立していて、主力となるような一貫した単一の技術は確立されていない。
 SMRの研究に取り組む各国には、それぞれに適した技術があり、支援する企業もあるので、設計で規模の経済性を実現するためには、複数の主要国が集まって一つの技術を決定し、メーカーと合弁会社を設立し、その技術だけを製造・配備する体制を確立しなければならない。
 これでは資本主義的な市場原理にもとづく解決策にはならないし、市場での競合によるコストダウンも見込めない。各国のエネルギー政策にもうまく適合しないであろう。
 どの炉型を選ぶとしても、おそらく世界で現在最も多く作られているSMRである、カナダの設計したCANDU炉を原形としてインドで建設された14基のSMRを超えることはないと思われる。
 ロシアは砕氷船や北極圏向けの小型炉に取り組んでおり、一定数の実用炉を運転している。しかし世界的な市場を形成することはない。
 既に運転している1基を含め、北極圏に何基かの洋上プラットフォーム型小型原子炉を建設すると思われる。
 しかし、同じ北極圏に位置する北欧諸国やカナダでは導入することはない。
 カナダはサスカチュワン州で2030年代半ばの導入を目指すプロジェクトで、米国GE日立の「BWRX−300」を選定している。
 中国は、原発を大規模に拡大している唯一の国だが、すでに100万kWを超える大型商業炉の技術バリエーションがいくつも実用化されていて、コストパフォーマンスの悪いSMRで置き換える理由がない。
 米国はSMRといえる小型PWRに再び焦点を当てる可能性はあるものの、連邦政府は推進する意志はないと思われる。
 スケールメリットがなく、コスト削減もできない。

 ニュースケール・パワー社はSMRの発電コストを、1kWh当たり約8.5円程度に抑えたい(日経新聞2021年7月17日)としているようだが、これでは太陽光(2030年で6.4円)や洋上風力(2030年で8円)にも及ばない。競争力はない(太陽光、洋上風力は2021年12月の資源エネルギー庁資料より)。      (下)に続く
 (「脱原発東電株主運動ニュース」No.316 2023年2月5日発行より了承を得て転載)
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