[2023_02_13_02]原発60年超運転、規制委が新制度了承 委員1人反対残す(日経新聞2023年2月13日)
 
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原発60年超運転、規制委が新制度了承 委員1人反対残す

 2023年2月13日 20:12 (2023年2月13日 23:02更新)
 原子力規制委員会は13日夜に臨時の委員会を開き、運転開始から60年を超える原子力発電所の安全規制に関する新たな制度案と原子炉等規制法改正の条文案を多数決で了承した。山中伸介委員長と他の委員の計4人が賛成し、石渡明委員が1人反対を続けた。規制委が重要案件を多数決で了承したのは極めて異例だ。
 2011年の東日本大震災以降の原子力政策を転換する重要な決定にもかかわらず、全会一致での結論を得られなかった。政府は今国会に関連法案の提出をめざす。
 事務局を担う原子力規制庁が13日の臨時委員会に、原子炉等規制法の改正案を提示し、山中委員長と4人の委員で協議した。石渡氏が8日の定例委員会で反対を表明したため、結論を持ち越していた。
 石渡氏は13日も改めて反対した。会合で現行の原子炉等規制法について「規制委が守るべき法律だ。われわれとして積極的に変えにいく必要はない」と主張し、山中委員長らとの認識の溝は埋まらなかった。石渡氏は地質学が専門で、地震や津波の審査を担当している。
 杉山智之委員も会合で、新制度案に同意した上で「締め切りを守らないといけないとせかされて議論してきた。規制委は独立した機関であり、われわれのなかでじっくり議論すべきだった」との考えを示した。
 規制委が了承した新制度では原則40年、最長60年の運転期間の規定を原子炉等規制法から削除する。運転開始から30年目以降は10年間隔で規制委が認可を繰り返す制度を導入し、経年劣化した原発の安全性を確認する。
 上限を60年とする規定自体は経産省が所管する電気事業法に移して残す。その上で、規制委による審査などで停止した期間分だけ、60年を超えても運転できるようにする。
 こうした法律の枠組みに変えるのは原子炉等規制法に基づいて審査する規制委が運転期間に関して「意見を述べる立場にない」との見解を示していたことによる。
 議論が本格化した当初は運転期間の上限を撤廃する案が浮上したが、与党などの慎重意見をふまえて見送った。政府は10日に閣議決定したGX(グリーントランスフォーメーション)基本方針で運転期間に現行と同様の制限を設けた上で、限定的に追加の延長を認めるとした。
 山中委員長は会合後の記者会見で、多数決に踏み切ったことについて「運転期間の根本に対する考え方が石渡委員と他の4人で違った。非常に残念なことだ」と述べた。
 規制委の運営に関する法令によると、委員長と4人の委員で意見が割れた場合は多数決をとることができる。規制委は22年から経産省による原発の運転期間延長の検討と並行し、古い原発の安全性を担保する制度改正を議論してきた。

 諸富徹 京都大学大学院経済学研究科 教授

別の視点
 自らの意見に基づいて反対を貫かれた石渡明委員に、敬意を表したい。同調圧力の強い日本の組織の中で、少数意見を貫くのは大変な勇気が要るからだ。彼が言うように、新たな科学的知見が出てきたわけではない。だが規制委員会は、これほどの大きな方針転換を、政権の望む形で短時間で決着させた。政権が委員会の動きに手を焼くこともなく、むしろ彼らの政権方針への急傾斜だけが目立った。福島第一原発事故の反省を受けて、独立性の高い3条委員会として規制委員会は出発したはずだった。だが震災後12年を経て早くも、その独立性は侵されつつあるようだ。独立したチェック機関を失うことの不利益を、我々は後に思い知ることになるのではないか。
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