[2023_02_08_15]長大活断層、甚大被害 古い建物 パンケーキ崩壊(東奥日報2023年2月8日)
 
 6日にトルコ南部や隣国シリアを襲ったマグニチュード(M)7.8の大地震は、警戒されていた長大活断層による直下地震だったとみられる。強い揺れに弱い古い建物も多く、1995年の阪神大震災でも起きた「パンケーキ崩壊」が発生。午前4時過ぎという暗い時間だったことも似ており、被害も大きい。国土のあちこちに活断層を抱えるのはトルコも日本も同じで、油断はできないと識者は指摘する。
 産業技術総合研究所の近藤久雄主任研究員(古地震学)によると、トルコのほとんどを含むアナトリアプレートは複数のプレートに囲まれ、境界に当たる長大な活断層などで地震が多く起きる。トルコ北部、ユーラシアプレートとの境界にある北アナトリア断層はその代表例だ。
 今回の地震を起こしたのはアラビアプレートとの境界にある東アナトリア断層とみられる。M6〜7級を繰り返している活発な活断層で、今回は全長数百キロのうちの100キロ超が水平方向にずれたらしい。1513年以降に動いていない「空白域」で、大地震の危険性が指摘されていた。
 M7・8発生の約9時間後には、90キロ余り北側でM7・5も起きた。地震で地殻への力のかかり方が変わり、東アナトリア断層から枝分かれした断層が連鎖的に動いたとみられる。
 楠浩一・東京大教授(耐震工学)によれば、被災地では建物が一瞬でつぶれるパンケーキ崩壊が多数起きている。建物を支える柱が鉄筋不足で壊れてパンケーキを重ねるように各階層が続けざまに真下に落ちる現象で、逃げる時間はない。トルコ特有のれんがを積み上げた壁や、質の悪いコンクリートを使った古い建物は特に弱い。パンケーキ崩壊は、阪神大震災でも一部の古い建物などで起きている。
 トルコは1万7千人余りが死亡した1999年の北西部地震など、近年も大地震が相次いでいる。これを受けて日本と同じくらいに厳しい建築基準があるが、今回は古い基準で造られた建物や低所得層が多い地域で被害が大きかったと指摘されている。
 「耐震診断や補強が間に合わなかったのではないか」(楠教授)。古い建物の補強をどうやって進めるのかは日本とも共通する問題点だ。
 今回の観測データから、低中層の建物に幅広く被害を出す揺れの特性がみられるといい、楠教授は阪神大震災に匹敵する強さと指摘。仮に日本で起きていたとしたら、大きな被害が生じた可能性が高いという。
 過去に地震の調査でトルコに入った経験がある中林一樹・東京都立大名誉教授(都市防災)は「地震の発生が就寝時間帯だったことが人的被害を増やした最大の要因だ」とみる。日本でも阪神大震災や2016年の熊本地震の本震など、多くの人が寝ていた時間に規模の大きな地震が起きた事例は多い。
 「一日のうち多くの時間を費やす寝室を安全な空間にしてほしい。できるだけたんすなどの家具を置かないことや、家具がベッドや布団に倒れてこない配置にするといった心がけが重要だ」。中林名誉教授は、日本の建物の耐震性をさらに上げる必要性も強調した。

 パンケーキ崩壊の特徴
 ●建物の重量を支える柱や壁が損傷し、上階が下階にほぼ垂直に落下
 ●床が積み重なった形になることから名前がついた
 ●内部に残る空間が少なく、すぐにつぶれるため、人的被害が大きくなりやすい
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