[2023_01_11_01]入札参加業者に仕様書案作成を依頼した原子力規制庁職員は、過去にも入札情報を伝えていた(東京新聞2023年1月11日)
 
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入札参加業者に仕様書案作成を依頼した原子力規制庁職員は、過去にも入札情報を伝えていた

 使用済み核燃料の保管方法を巡る調査の一般競争入札で、発注者の原子力規制庁の職員が仕様書の草案作成を入札参加業者に依頼していた問題で、この職員は過去の一般競争入札でも参加者に入札の情報を伝えるなど2度にわたり「不適切」などと内部から指摘を受けながら、配置換えや処分を受けることなく担当を続けていたことが分かった。現職の規制庁関係者が本紙の取材に証言した。(井上真典)
 職員は長年、使用済み核燃料の保管方法の安全研究を調査するグループに所属。2019年3月の定年退職後は非常勤となり、昨年4月の組織再編でシステム安全担当に替わった。
 問題の入札は、20年9月にあった「キャニスタを用いた使用済み燃料の乾式貯蔵方法に係る調査」。使用済み核燃料を保管するステンレス製の筒型容器(キャニスタ)の耐食性向上の調査で、原子力関連企業が1者応札で約2700万円で落札した。落札率は92.9%だった。規制庁は、本来は職員が担当する仕様書案の作成を外部の業者に依頼するのは内規違反だとして、昨年11月、職員を厳重注意処分した。

 ◆2度の「不適切」指摘も処分や配置換えなし

 規制庁関係者は、取材にこの職員は19年7月の一般競争入札でも「部下に対して、同社の案通りに仕様書を作るよう指示していた」と証言。一連の問題は人事課の内部通報窓口に通報した、と話した。
 人事課幹部は「申告者保護のため、内部通報の有無は回答できない」とするが、当時の直属の上司は職員が特定企業に仕様書案の作成依頼をしていたことを把握していた、とした上で「複数社から話を聞くよう、折に触れて注意はしていた」と説明した。入札担当から外さなかったのは「対応が甘かった」と話した。

 ◆対応が甘かった…でも「違法性はない」

 別の規制庁関係者によると、職員は17年にも、前年度に1者応札で落札した国立研究開発法人に、翌年度の一般競争入札情報を伝えたことがあった。規制庁では「情報提供は不適切だった」と判断し、情報管理の徹底を柱とする改善策をまとめたが、配置換えなどは行わなかったという。
 規制庁は昨年6月に問題を公表した際、仕様書案の作成依頼について職員が「普通のことだと思っていた。接待や金銭のやりとりはない」と話していると説明。また、ほかの業者も入札可能な状態だったことから「違法性はない」とした。職員は本紙の取材に「特に申し上げることはない」とだけ答えた。

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◆関連企業に丸投げ? 問われる自浄能力
 一連の問題は本紙が昨年5月、「2020年の入札に絡み疑義がある」とする情報提供を受け、情報公開請求をしたのを機に表面化した。指摘がなければ、仕様書案の業者への作成依頼が続けられていた可能性があり、規制庁の自浄力が問われる。
 開示された男性職員と原子力関連企業側とのメールのやりとりからは、本来は国側が詰めるべき調査内容の詳細を丸投げしようとしていた実態がうかがえる。職員は入札3カ月前の20年6月、企業の担当者に「費用概算・調査期間・仕様書案を(6日後までに)頂けると幸いです。無理な場合、いつまでに準備できるか提示願います」とメールを送信。同月、担当者から職員に「仕様書」などが送信されていた。
 職員は別のメールでは担当者に、予算化されていない翌年度の事業について「御社と相談しながら準備したい」と送っていた。
 企業の広報部は本紙に「通常の技術提案の範囲」と回答した。
 公共事業に詳しい桐蔭横浜大元教授の鈴木満弁護士は「発注者が業者に仕様書案の作成を持ち掛ければ、出来レースだと疑われかねない。税金からなる公共事業では特に、入札参加者と緊張関係を保つ必要がある」と指摘している。
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