[2022_12_30_01]原発事故の賠償見直し 実情に即し損害認定を(中国新聞2022年12月30日)
 
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原発事故の賠償見直し 実情に即し損害認定を

 文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)が、東京電力福島第1原発事故の国の賠償基準「中間指針」を見直した。
 各地に避難を余儀なくされた住民らが国や東電を訴えた集団訴訟で、従来の指針を上回る東電への賠償命令が確定したためだ。被害の実態と指針の乖離(かいり)は長い間、放置されてきた。遅きに失したとの批判は免れまい。
 インフラ復旧が遅れる居住制限区域と避難指示解除準備区域の住民に対する「ふるさと変容」や、事故直後の「過酷避難」を新たに賠償項目に盛り込むなど対象を拡大した。事故から11年が経過した今も福島県内外で約2万7千人が避難生活を送る。実情に応じ柔軟に賠償する運用に改めなければならない。
 指針は事故後間もなくまとめられ、東電は指針に基づき賠償請求に対応してきた。しかし交通事故の自賠責保険を参考にしているため、原発事故の深刻な被害や避難に伴う精神的な苦痛は考慮されていなかった。
 何度か見直されたが、避難住民は2013年、「指針は不十分」と国と東電を8地裁に一斉提訴。その後も提訴が相次いだ。今年3月に7件で、最高裁決定を経て指針を上回る賠償命令が確定。それを受けて原賠審はようやく、9年ぶりの見直しに動いた。
 住民や被災自治体は見直しを訴え続けてきた。生活再建を目指しながらの訴訟負担は大きく、賠償を受けられず亡くなった人もいる。その事実を国と東電は重く受け止めるべきだ。
 見直しで、長期避難に伴い故郷の姿や生活基盤が大きく変わったとして居住制限、避難指示解除準備両区域の住民に250万円の賠償を新たに認める。
 原発20キロ圏内の住民らが強いられた「過酷避難」や、事故後に設定された計画的避難区域での「相当量の線量地域に一定期間滞在したことによる健康不安」などを加算する。対象拡大に伴う東電の追加賠償は総額5千億円前後の見通しだ。
 今後も絶えず指針を見直す必要がある。賠償額への不満や、賠償格差が住民の亀裂を生みかねないとの懸念の声が被災地では聞かれる。賠償項目にこだわることなく、個々の事情に配慮し、被害を見極めて認定するなど、避難者に寄り添った仕組みにすることが求められる。
 原賠審が最初に指針を示した当時、国の原子力損害賠償紛争解決センターを仲介機関とし、住民が申し立てた裁判外紛争解決手続き(ADR)での和解案に沿って東電が賠償すると想定された。東電も和解案の尊重など「三つの誓い」を掲げた。
 だが指針を上回る賠償を示した和解案を東電が拒否し、センターが手続きを打ち切る事例が18年から急増した。既に一審で敗訴を重ねていたにもかかわらずだ。早期救済をゆがめた東電は大いに反省せねばならない。
 原賠審は新指針で「指針は賠償の上限ではない」「合理的で柔軟な対応と同時に被害者の心情にも配慮した誠実な対応が求められる」と指摘した。東電はこれを踏まえて賠償内容をまとめ、「誓い」を果たすべきだ。
 最高裁が6月の判決で国の賠償責任を認めなかったのは理解に苦しむ。国策として原発設置を進めた国は東電とともに、誠意ある償いと被災地の再生に取り組む責務がある。

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