[2022_12_21_11]「遅すぎる」「対象区域拡大せず、分断生む」 原発賠償基準見直し 福島の被災者から不満や懸念(東京新聞2022年12月21日)
 
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「遅すぎる」「対象区域拡大せず、分断生む」 原発賠償基準見直し 福島の被災者から不満や懸念

 東京電力福島第一原発事故の賠償基準になる「中間指針」が9年ぶりに見直された。避難指示区域で「ふるさと変容」など新たな項目が認められ、福島県の被災者からは評価する声がある一方、「もっと住民の声を聞いてほしい」「分断が広がる」といった不満や懸念も出された。(片山夏子)

◆偏りがある上、少な過ぎる

 「ふるさと変容などが認められ、一歩前進。でもあまりに見直しが遅過ぎる」
 福島原発訴訟の中島孝原告団長(66)は、そう苦言を呈する。
 第一陣の原告は県内外の約3650人で、中間指針を超える賠償責任を認める確定判決が出るまで100人以上の原告が亡くなった。「中間指針は被害者の迅速な救済が目的。多くの被害者の訴えを直接聞き、見直す姿勢があれば、確定判決が出る前に見直せたはず。迅速な救済という責務を投げ出している」と憤る。
 また、見直しに当たり、原子力損害賠償紛争審査会が直接、話を聞いた住民は、避難指示区域の一部だけ。「偏りがある上、少な過ぎる。積極的に被害を聞く姿勢がない」と指摘。内容には「新たな項目が避難指示区域に限られている。裁判で被害が認められた会津や県南、他県の一部を対象とせず、自主避難区域を拡大しないなど、地域分断という福島県が抱える大きな問題はそのままだ」と語った。
 自主避難区域の福島市に住む渡部保子さん(80)は、夫の親が施設にいたことなどからとどまった。「見えない放射線への恐怖は、原発からの距離だけでは測れない。自主避難区域の大人の賠償は増額されたが、対象の区域が拡大されず喜べない。ただ、裁判がなければ見直しはされなかった。裁判が動かしたと思う」

 ◆賠償認められても「故郷の住民はバラバラ」にじむ悔しさ

 南相馬市小高区で漁業と農業をしていた志賀勝明さん(74)は、今は相馬市に住む。今回の指針の「ふるさと変容」で新たに250万円の賠償が認められたが「悔しい」と声を落とす。
 「故郷の住民はみんなばらばら。人間関係は戻らない。去るも地獄、残るも地獄。もっと住民の声を聞いて反映し、実情にあった賠償にしてほしい」。東電の賠償姿勢を反映し、指針の改訂版には「指針は賠償の上限ではない」と何度も明記された。「裁判で闘ってきた成果。少しは前向きにいきたい」と語った。
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