[2022_12_18_03]汚染土の再利用 拙速な進め方に住民から怒りの声 県外搬出がなぜ必要か、疑問解消せず 所沢で(東京新聞2022年12月18日)
 
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汚染土の再利用 拙速な進め方に住民から怒りの声 県外搬出がなぜ必要か、疑問解消せず 所沢で

 東京電力福島第一原発事故による福島県内の除染で出た汚染された土を、県外で再利用する事業が始まろうとしている。16日夜に環境省環境調査研修所(埼玉県所沢市)であった初めての住民説明会は、拙速な進め方への批判が相次ぎ、紛糾した。なぜ県外搬出が必要なのか、汚染の拡散はないのか。住民の疑問は解消されないままだ。(小野沢健太、飯塚大輝、中里宏)
 同日午後9時50分ごろ、3時間半近くの説明会を終えて研修所の部屋から出てきた住民らは、疲れた表情をしていた。保育士の女性(58)は「環境省は『安全』と繰り返すばかり。納得がいかない」と不満げに話した。「なぜ福島県外に出す必要があるのか。風評被害を含めて市全体の問題。広く市民の声を聞くべきだ」
 説明会は冒頭を除き、非公開。研修所周辺の約1200世帯に対象を限り、参加者は56人。自治会の掲示板などでの周知にとどまった。無職男性(71)は「ニュースを見て、市役所に問い合わせて説明会を知った。掲示板で知らせたというが、あれではわからない」と憤った。
 福島県内の除染で出た土は、福島第一原発に隣接する中間貯蔵施設に搬入し、2045年までに県外で最終処分することが法律で定められている。実質的な最終処分場とならないようにするためだ。
 国は「全量を最終処分することは、処分場の規模の確保が難しい」との見解。16年に放射性セシウム濃度が1キロ当たり8000ベクレル以下の土などは再利用すると決めた。中間貯蔵施設の保管量の約4分の3が再利用に回ることになる。
 8000ベクレル以下という基準は、汚染土の近くにいる人の被ばく線量が、国際放射線防護委員会(ICRP)が勧告する一般人の年間被ばく限度(年間1ミリシーベルト)を下回るように設定。工事中に汚染土を扱う作業を年250日間実施したとの仮定で算出された数値だ。
 今回、環境調査研修所などで計画される実証事業は、汚染土の上に50センチの覆土をして放射線を遮る。類似の条件で、福島県南相馬市で実施した盛り土造成の再利用事業では、盛り土周辺の空間放射線量はおおむね毎時0.05〜0.07マイクロシーベルトだった。環境省は「周囲の放射線量と同じ水準」としている。
 福島県外での実証事業は、再利用を拡大して中間貯蔵施設の汚染土を減らし、最終処分場の選定をやりやすくする狙いがある。しかし、放射能汚染の拡散への懸念も強く、丁寧な説明は欠かせない。16日の説明会後、環境省の担当者は、今後の住民説明や事業の進め方について「所沢市と相談して考える」と述べるにとどまった。
 研修所前での抗議行動に参加した所沢市の自営業女性(72)は、知り合いの福島県民から汚染土の県外搬出について「本当に申し訳ない」とのメールをもらった。「原発事故の被害者にこんなことを言わせるなんて。国は分断をつくり出すことしかしていない」
 同様の実証事業は、同省関連施設の新宿御苑(東京都新宿区)の花壇でも実施予定で、21日に住民説明会がある。国立環境研究所(茨城県つくば市)でも事業実施を検討している。
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