[2022_11_20_04]運転期間から停止期間を除外したい事業者 日本原電と東電救済策の色合いが強い事業者の利益のため住民にリスクを負わせる(その2) 想定外だった全電源喪失・米国の原発事故の教訓も生きない日本・規制委は運転延長に際してどれだけ厳しい審査をしたのか 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ2022年11月20日)
 
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運転期間から停止期間を除外したい事業者 日本原電と東電救済策の色合いが強い事業者の利益のため住民にリスクを負わせる(その2) 想定外だった全電源喪失・米国の原発事故の教訓も生きない日本・規制委は運転延長に際してどれだけ厳しい審査をしたのか 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

 想定外だったステーション・ブラックアウト(全電源喪失)

 原発は電力がなければメルトダウンを免れない。
 ステーション・ブラックアウト(全電源喪失)という言葉が、福島第一原発事故の時、盛んに飛び出した。
 電源がないため計器が動かない、今どうなっているのかパラメータも見えない、温度も圧力も分からない、放射線量さえ計れない。
 福島第一原発事故で事故収束に当たった従業員や下請けの労働者は、何度も死を覚悟した。その最も大きな理由は、今自分が置かれている状況が確認できず、何時爆発するかもわからないことだ。
 これらは人が五感で知ることはほとんど出来ない。全ては計器類により明示されない限り分からない。火力のボイラーならば、近寄って表面の温度を感じたり、弁が動かなければ手動のハンドルを回したりと、手はいくらもあるのだが、原発は電力がなければ何もできない。温度や圧力さえ分からない。
 電動駆動ポンプは動かず、水を入れる手段もほとんどない。
 消防車のわずか10気圧程度のポンプで数十気圧の圧力容器に海水を入れようと試みたが、送った水の100分の4程度しか入っていなかったという。
 ステーション・ブラックアウトは、あらゆる対策、収束手段を作業員から奪った。
 古い原発は、そうしたリスク対策は極めて脆弱だ。
 むしろ、電源ケーブル自体が導火線になって、火災を拡大させる危険性さえある。

 米国の原発事故の教訓も生きない日本

 1975年3月22日、米国のブランズフェリー原発1号機(沸騰水型軽水炉116万キロワット)で火災が発生した。この時点では運転開始2年程度で、新鋭と言って良い原発だった。しかし定期検査の最中にローソクを使って空気の通りを調べていてケーブルに引火する事故が起きた。
 この火災は、発生から消火まで実に8時間を要した。約1600本以上のケーブルが利用不能になった。
 事故以前にNRCは火災を起こした原発の設計基準において緊急炉心冷却システム(ECCS)の多重防護を求めていた。
 制御系のケーブルは近くに配線されていると、火災の発生で延焼してしまい多重防護が破綻してしまうという技術的知見が欠落していたことが明らかになった。
 同時代では、日本でも1972年に千日デパート火災(大阪市・死者118名)、北陸トンネル火災(敦賀市・死者30名)などの重大事故が起きていた。
 そのため、世間では火災防止対策が強化されていったが、原発は深刻に捉えていなかった。
 1978年11月に運転を開始した東海第二原発は約1400キロメートルのケーブルを有するとされるが、運転時には難燃化ではない可燃性のケーブルを使った。
 既に米国で重大事故が起きていたにもかかわらず、そして、いくら多重防護の設計をしていても電源ケーブルが同じ位置に敷設されていたら火災により容易に多重性は失われることを認識していなかった。
 東海第二原発では、安全上重要なケーブルについてどのように対策をしたのか。
 茨城新聞の2017年7月21日によれば、「安全機能を持つ設備につながるケーブルは長さが約400キロあり、約80キロは既に難燃ケーブルを使用。
 残り約320キロのうち新たに約120キロを難燃ケーブルに交換し、残り約200キロは防火シート工法での対応を想定している」という。
 安全上重要なケーブルでさえ少なくても200キロは燃えるケーブルがそのまま使われている。

 規制委は運転延長に際してどれだけ厳しい審査をしたのか

 日本の原発の内、可燃性ケーブルのまま運転しようとしている原発は、おそらく東海第二と高浜1、2号機だけだろう。その他の原発のなかでは、同時代のものは全て廃炉になっているか、審査を受審していない。つまり再稼働するつもりはないと思われる。
 少なくても福島第一原発事故を再び起こさないというのは、再稼働の最低条件である。
 この場合、ケーブルに関しては、火災が起きないことを保証しなければならない。
 ところが東海第二の対策は、可燃性ケーブルのままトレイに敷設し、全体を難燃シートで巻くというのだ。
 火災を防ぐのではなく、他の火災から延焼しない対策でしかない。ケーブル自体が発火してしまえば、シートの中でくすぶり続けることになる。
 これが大電力を流すポンプ動力ケーブルならば、一緒に巻かれているケーブルは全部炭化してしまうだろう。
 また、メタクラ(金属筐体の受電設備)、パワーセンター(電源盤)、遮断機(電力を遮断する装置)などが発火した場合、ケーブルが導火線になる危険性も無くなっていない。
 2011年の東日本大震災では、同じく可燃性ケーブルのままだった女川原発1号機のタービン建屋にあった遮断機が地震の揺れでアーク放電火災を起こし、ケーブルにも延焼、並んでいたメタクラが全焼した。
 原発は停止しており、電源は通じていたのでメルトダウンは免れたが、タービン建屋の電源盤が焼け落ちた。
 大きな地震では、火災が電源装置類の発火から始まることも珍しくないことは、2007年の中越沖地震で柏崎刈羽3号機の起動変圧器が発火した。
 この場合はケーブルが延焼することはなかったが、震度6を超える地震に見舞われれば火災は免れないと思うべきだ。
 しかし規制委は、可燃性ケーブルのままの東海第二と高浜1、2号機の再稼働と20年の延長を認めてしまった。
 これで「世界一厳しい規制」などと言えるはずがない。
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