[2022_10_21_03]首都直下地震で最も危険な場所(島村英紀2022年10月21日)
 
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首都直下地震で最も危険な場所

 首都圏直下型地震が迫っている。フィリピン海プレートの潜り込みが思っていたよりも浅いことが最近分かったので、首都圏の震度が大きくなったのだ。
 東京都は「地域危険度」を発表した。各町の丁目ごとに建物倒壊と火災発生の危険性を評価して5段階にランク付けした。発表は4年ぶりだ。
 危険度が高いランク5は85カ所あった。危険度が高い1位は、都電荒川線の町屋駅前駅の南西側にある荒川区荒川6丁目、2位は同じく都電荒川線の町屋二丁目駅北側の荒川区町屋4丁目、3位はこれも荒川沿いにあるJR北千住駅東側の足立区柳原2丁目だった。
 そのほか、荒川や隅田川が近い荒川、足立、墨田、葛飾など23区東部の6区の街がランク5のうち4分の3を占めた。いずれも荒川や隅田川が運んできた堆積物が厚く積もった低地帯である。地震のときに震度が大きくなるところだ。
 そのほかの地域も枕を高くしては寝られない。耐火性の低い木造住宅が密集している環状7号線の内側を中心にドーナツ状にある地域だ。これらには品川区南西部、大田区中央部、中野区、杉並区東部などがある。これらの地盤は東京東部ほど悪くはないが、地震のときの火災が燃え広がる恐れが大きいので危険度上位にランクされている。
 東京や大阪などの都会には「木密地帯」といわれる古い木造住宅が密集した地帯が多い。
 2018年に起きた大阪北部地震ではマグニチュード(M)は6・1、最大震度は6弱で、内陸直下型地震としてはそれほど大きくはなかったが、瓦が落ちるなど家が損壊する多くの被害があった。被災家屋は高槻市が約2万棟、茨木市が約1万6000棟にも達した。
 壊れた家を修繕する支援金制度は自治体から出たが、自己負担も大きくて支払えない人も多かった。そのうえ公的補助は工事が完了しないと支給されないという制限もある。とりあえずの金額を用意できない人々にとっては大変な制約になる。
 まして首都圏のように、地震が来る前の建て替えは個人負担になるので、容易ではない。多くの自治体で耐震診断や耐震補強も費用を一部は負担してくれる。耐震性のない家屋が地震で倒れて道をふさいだり、火事を出して周囲に延焼したりすると、その家だけではなくて周囲に影響が及ぶからだ。
 だが、たとえ自治体が一部を負担してくれても、残りの大部分の個人負担ができず、改良できないままの家屋も多い。これらの家屋は地震に限らず、各種の災害に弱い。
 日本の建築基準法は1971年と81年に強化された。1968年十勝沖地震(M7・9)と78年の宮城県沖地震(M7・4)がきっかけだ。古い家はまだまだ残っている。
 一方、災害のほうは文明が進むと増えていく傾向にある。たとえば2014年に起きて77の人命を奪った広島市安佐南区の土砂災害がある。広島市が北に広がり60年以上も安全だったが「いままでにない」豪雨で地滑りが起きてしまったのだ。
 地震も同じだ。古くて弱い家に住み続けなければならない地震弱者を選択的に襲うのが地震というものなのである。
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