[2022_10_10_01]<社説>規制委10年 原点を忘れるなかれ(東京新聞2022年10月10日)
 
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<社説>規制委10年 原点を忘れるなかれ

 福島第一原発事故の反省を踏まえ、原子力規制委員会が発足して十年。脱炭素の要請やロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー不安を名目に、運転期間の延長や新増設も視野に入れ、政府が原発推進に傾く今こそ、その真価が問われているといえよう。
 3・11以前、原子力の規制を担う原子力安全・保安院が、原発推進の司令塔である資源エネルギー庁と同じ経済産業省の中にあったため、十分に役割を果たせていなかったという指摘が、国会事故調査委員会などから相次いだ。
 そこで二〇一二年九月、所管大臣の指揮権から独立した機関として発足したのが、原子力規制委員会である。
 福島の教訓を踏まえて規制委は、地震の強さや津波の高さの想定を引き上げ、電源対策など非常時の備えを強化するよう求める新たな規制基準を策定。いったん規制基準に適合すると認めた原発に対しても、常に最新の安全対策を取り入れるよう義務付けた「バックフィット制度」を導入するなど、一定の成果を上げてきた。
 ところがここへ来て、経済界だけでなく、再稼働を急ぐ政府や自民党からも審査の合理化、効率化を求める声が強まるなど、原発回帰の風にさらされている。
 この七月、規制委の事務局を担う原子力規制庁の長官に、片山啓次長が昇格し、発足以来初めて、長官、次長、原子力規制技監のトップ3を経産省出身者が占める布陣になった。3・11以前への回帰が進んでいるようにも映る。
 規制委の方も更田豊志委員長が先月退官し、設立時のメンバーが不在となった。
 新体制のスタート早々、経産省が、原則四十年、「例外中の例外」として最長六十年と定めた原発の“寿命”を延長する方針を打ち出すと、規制委は直ちにそれを容認する姿勢を見せた。信頼のあかしである独立性の看板が傷つきかねない判断だ。
 山中伸介新委員長は就任時の会見で「厳正な原子力規制を遂行していく方針に何ら変わりはない」と強調したが、当然だ。
 規制委はいわば、3・11の申し子で、その使命は名前の通り、原子力の推進ではなく規制である。
 規制を緩めるということは、3・11を忘れることにほかならない。教訓を忘れたときに、人は過ちを繰り返す。
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