[2022_09_03_06]ウクライナ戦争で原発が「核爆弾」に変わる恐怖 (その3)(了) ジュネーブ条約追加議定書と原発 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ2022年9月3日)
 
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ウクライナ戦争で原発が「核爆弾」に変わる恐怖 (その3)(了) ジュネーブ条約追加議定書と原発 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

 6.ジュネーブ条約追加議定書と原発

 1956年、国際赤十字(IRC)は、その攻撃が一般市民を危険にさらすおそれのある「原子力発電所」を含む施設への攻撃に対する除外を提唱した。IRCがこの問題を提起した結果、ジュネーブ条約第一議定書が成立した。
 第1議定書第56条は、次の通りである。
 「1949年8月12日のジュネーヴ諸条約の追加議定書及び国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する1977年6月8日のジュネーヴ諸条約の追加議定書(第一議定書)
 第56条 危険な力を内蔵する工作物及び施設の保護
 1 危険な力を内蔵する工作物及び施設、すなわち、ダム、堤防及び原子力発電所は、これらの物が軍事目標である場合であっても、これらを攻撃することが危険な力の放出を引き起こし、その結果文民たる住民の間に重大な損失をもたらすときは、攻撃の対象としてはならない。これらの工作物又は施設の場所又は近傍に位置する他の軍事目標は、当該他の軍事目標に対する攻撃がこれらの工作物又は施設からの危険な力の放出を引き起こし、その結果文民たる住民の間に重大な損失をもたらす場合には、攻撃の対象としてはならない。」

 米国は一貫して第一議定書の批准を拒否し、核施設への攻撃を核兵器禁止条約に含めることを断固として拒否してきた。しかし、米国は第一議定書に署名した。
 この議定書は、批准に向けて努力している間は議定書に違反しないことを米国に義務づけている。ロシアは議定書を批准した後、2019年に第一議定書から離脱した。しかし170以上の国が批准したことで、これはほぼ間違いなく有効な国際的行動規範となっている。
 ジュネーブ条約第2議定書は、はるかに簡潔ではあるが、核施設および関連施設への攻撃にも適用される。

 議定書第15条(危険な力を内蔵する工作物及び施設の保護)は、次のとおり規定する。
 「危険な力を内蔵する工作物及び施設、すなわち、ダム、堤防及び原子力発電所は、これらの物が軍事目標である場合であっても、これらを攻撃することが危険な力の放出を引き起こし、その結果文民たる住民の間に重大な損失をもたらすときは、攻撃の対象としてはならない。」
 米国はこの議定書に署名したが、批准はしていない。ここでは、ロシアはまだ議定書の締約国であり、その最近の行動は、第二議定書に違反していると考えられる。
 しかしロシアは、第15条の条件が曖昧で不明瞭であることに言及し、危険な力の解放とそれに伴う市民の重大な損失を引き起こしたのではないと主張するだろう。
 ただし、条約や国際規範の大部分は、違反している締約国に対してその条項や概念を強制する能力をほとんど、あるいは全く備えていないことに留意しなければならない。
 特に、違反している締約国が、国連安全保障理事会やその他団体による何らかの強制や、それに対する措置の対象とならない大国、この場合は常任理事国である場合は、なおさらである。
 このように、ウクライナにおける原発等の危険施設に対する攻撃を見れば、ロシアがこれ以上自制することは極めて難しいと考える。
 ロシア政治の現状を考えると、その可能性はますます低いと言わざるを得ない。
 そのため、環境や住民への影響を最小限に抑えるためにはウクライナが取り得る行動や選択肢、例えば原発を止めるなどのような行動が重要になるだろう。
 ロシアについては自制が望めないのであれば、一定の譲歩を引き出すために出来るだけ速やかに停戦交渉団を作るべきである。 (了)
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