[2022_09_01_05]ウクライナ戦争で原発が「核爆弾」に変わる恐怖 (その2) 戦場では電力網も標的になる 国際法の体制 (3回の連載) 山崎久隆(たんぽぽ舎)(たんぽぽ2022年9月1日)
 
参照元
ウクライナ戦争で原発が「核爆弾」に変わる恐怖 (その2) 戦場では電力網も標的になる 国際法の体制 (3回の連載) 山崎久隆(たんぽぽ舎)

 4.戦場では電力網も標的になる

◎ 戦争当事国にとって、社会インフラは戦略物資であり戦略目標だ。戦争になれば通商破壊や通信遮断、電力網破壊やエネルギー施設の攻撃は常に行われる。攻撃側も防御側も重要施設に軍事力を集中する。その結果、大規模な攻撃と戦闘に巻き込まれる。

◎ 国際法でもそれは考慮され、攻撃により甚大な影響を受け、戦後の復興にも深刻な打撃を与える原子力やダム施設に対する武力行使は禁止されている。
 法で禁止されても、それが遵守される保証はない。特に戦争が混迷し始めると、これら施設への意図的な攻撃は、偶発的に起きたかのように偽装することもあり得る。

◎ また、電力網(発送電施設・設備)への攻撃は禁止されていないから、これら施設に対する武力行使は行われる。
 原発は、施設が直接攻撃を受けなくても電力網への攻撃により外部電源が失われれば危機的状況になる。
 福島第一原発事故は、まさにそうした状況下(この場合は地震が原因)で発生している。
 ロシア軍がウクライナの電力網に対して網羅的な攻撃をしている状況は確認されていないが原発の周辺で大規模な攻撃を行えば、原発への電力線が損傷し、送電不能になる可能性は高い。その時点で、既に原発は危機的状況になる。

◎ 6月26日、ウクライナ政府は、南ウクライナ原発上空をロシア側の巡航ミサイル(カリブルとみられる)が飛び去ったとIAEAに報告している。このような事が日常的に起きるのが戦時だ。
 原発への直接攻撃ではなくても、ザポリージャ原発のように軍が銃を突きつけて原発の運転を強行する場合も、通常時とは比べものにならないくらい危険だ。
 運転員や従業員は、原発の運転時は強い緊張感の元にある。それに加えて軍事的な脅威、身の危険を感じて運転を強いられるのだから、不測の事態が起こる可能性はより高まる。原発の安全にとって大きなリスクになっている。

◎ 実際に、チェルノブイリ原発では2月24日〜3月31日までロシア軍が占領していた期間に、職員の交代がほとんど認められなかった。
 自民党の高市政調会長は3月23日、原発の警護について、平時から自衛隊の任務にする法改正が必要との認識を示したという。(時事)
 これなどは、自ら原発で交戦状態を作り出す以外の何物でもない。原発への武力行使には護りようはない。

◎ 言い換えれば、現在再稼働の条件とされている「特定重大事故等対処施設」も、小規模なテロ攻撃を想定しているだけで、戦争や本格的な武力行使(例えばミサイル攻撃など)を想定したものではないことは原子力規制委員会も認めている。
 これに対して自衛隊を配備すれば、攻撃側は目的を達成するため、より強度を上げた攻撃をするだけだ。
 日本は海岸線に核地雷を並べているに等しい。原発が原爆に変わってしまうのである。

5.国際法の体制

◎ 原発への攻撃は「戦争犯罪」といえるのか。国際的な法制度に由来する間違いのない国際法の規定だろうか。
 国際法は、条約、協定、行動規範で構成される。さらに条約は締約国に合意された責務を負わせるため、国際法の最上位に位置する。
 しかし原発とそれに付随する核燃料施設などを特別に扱う独立した条約は存在しない。
 そこで期待される各国の行動は、広く合意された他の枠組みや規範の中に見出され、そのような現状は法的な関係性を明白化してはいない。
 実際のところ、国家主体の原子力施設への攻撃は驚くほど多い。

◎ 最もよく知られているものは、イスラエルによる攻撃である。
 1981年、イスラエル空軍は、オシラク原子炉がイラクの核兵器開発計画の一環であるとして、バグダッド郊外のフランス製原子炉を攻撃した。
 これは米国をはじめ多くの国々によって非難された。イスラエル空軍は2007年にも今度はシリアで「疑惑の原子炉」を攻撃した。どちらの場合も、燃料を入れる前の原子炉だった。なお、シリア攻撃については、攻撃されたのは原子炉ではないとシリア側は主張している。

◎ 1991年の湾岸戦争では、米国はバグダッド近くのツワイサにあった研究用原子炉2基を攻撃して破壊した。イスラエルと同様に、原子炉は核兵器開発計画の一部であるとの理由で、攻撃は正当化されると主張した。
 1981年のイスラエルによる攻撃は、国際連合憲章第2条4項に基づき、非合法な武力行使として非難された。

◎ 一方で、1991年のイラクへの全面攻撃は国連決議によるものであり、交戦規定(武力紛争法)が適用されると考えられていたため、米国の攻撃は国際法上ほとんど問題にさえされなかった。
 攻撃は国連決議の範囲を超えていたと主張することは可能だが、国連は徹底的な分析を求めることはなかった。

 戦争の遂行に関連する2つの主な原則は、「戦争の差別化と均衡化」である。
 何が行われようと、挑発に対する均衡のとれた対応として正当化されなければならず、その対応は、可能であれば民間および非軍事的財産への損害を回避しつつ、軍事目標と民間目標とを明確に分けなければならない。

◎ ロシアの侵攻自体が「一般原則」の一つに違反するのか、それとも両方に違反するのかという議論は別として、ロシアによるウクライナの原子力施設および関連施設への攻撃は両方の原則に違反している。
 攻撃された施設は、ウクライナ軍とは繋がらない民間施設であり、攻撃は差別的に行われてはいない。
 ウクライナを攻撃したロシアが、「ナチスや麻薬中毒者によって運営されている」という、全く真実ではない「理由」を正当だと仮に認めるとしても(極端な例だが)、原子力施設や関連施設への攻撃は、ウクライナが行ったとロシアが主張するようなものと均衡しているという根拠は見いだせないし、立証もされていない。(その3)に続く 
 (その1)は、8/27【TMM:No4565】に掲載
     (「市民の意見30の会・東京」発行『市民の意見』No.192
                 2022/8/1より了承を得て転載)
KEY_WORD:ウクライナ_原発_:FUKU1_: