[2022_08_31_03]「帰るなら除染」に住民不満も 帰還困難区域の意向調査始まる(毎日新聞2022年8月31日)
 
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「帰るなら除染」に住民不満も 帰還困難区域の意向調査始まる

 東京電力福島第1原発事故に伴う帰還困難区域のうち、特定復興再生拠点区域(復興拠点)から外れた地域について、内閣府が住民に帰還の意向を尋ねる調査を始めたことが明らかになった。政府は帰還の意向がある人の自宅や生活道路を除染して2029年末までに帰還可能にする方針で、回答を踏まえ具体的な除染範囲の詳細を詰めていく。従来の面的ではないピンポイントの除染と避難指示解除のやり方には住民の不満や不安も多い。

 「面的な除染」から一転

 初めての意向調査は福島県大熊町と合同で8月19日に約800世帯に郵送し、回答期限は9月15日とした。対象は同町の帰還困難区域のうち、除染やインフラ整備が進み6月末に避難指示の解かれた復興拠点と、県内で出た除染土を保管する中間貯蔵施設用地を除いたエリアに土地や建物を所有していた人と同居していた親族。
 内閣府は同様に、同県双葉町と合同で8月26日に約600世帯に送った。回答期限は9月20日とした。
 政府は23年度に除染範囲を決め、24年度にも除染を始める方針を示しており、29年末までに、(1)意向調査(2)除染(3)避難指示解除――を繰り返していく。帰還困難区域を抱える残り県内5市町村についても、自治体との協議や住民への説明を重ねた上で意向調査の手法を検討する。

 大熊町の意向調査ではまず、世帯の家族一人一人の帰還の希望を「有、無、保留」の3択で回答し、保留なら自由記述で事情を書く。「帰還」の明確な定義はせず、「最終的に戻っていただくことをお願いしたい」と説明している。除染後に帰還しなかった場合、「ペナルティーは想定していないが、個別の事情は伺いたい」とも記されている。
 帰還希望がある場合は、土地や建物の権利者情報▽行政区長との情報共有の可否▽自家消費を含めた営農も希望するか――を回答する。営農希望者は農地の情報や、震災前の作付け品目▽帰還後の作付け品目▽農業用水や鳥獣対策、出荷施設など必要なインフラ整備――を記入する。
 意向調査の回答率や帰還希望率は除染範囲を決める重要な資料となる。内閣府の担当者は「行政区ごとに帰還希望者が多そうだ、少なそうだという声は聞くが、実際のところは回答を待たないと読めない」と話す。

 透ける「費用対効果」

 復興拠点外はこれまで、10年以上にわたり除染や避難指示解除の具体的な方針がなかった。政府は昨年8月、「地域を面的に除染して帰還可能にする」という従来の方針から一転、拠点外については「帰還を希望する人の家や道路を除染して29年までに帰還可能にする」という新たな枠組みで進めると決めた。表向きは「希望者の一刻も早い帰還を実現させるため」だが、多くの帰還者を見込めない地域を国費で除染することへの「費用対効果」の観点が透ける。
 住民からは「面的な除染が筋だ」「帰る意思がなければ解体もしてもらえないのか」という反発が多い一方、「自宅は放射線量が低いので除染せずとも今すぐ解除してほしい」「国費は限られており放置よりマシだ」という声もある。方針を十分理解していない人もおり、大熊町の吉田淳町長は同封の案内文で「これまでのアンケートとは大きく異なる」「皆様の帰還意向に応じて必要な範囲箇所が除染、避難指示解除される」と明記した。

 ある自治体の担当者は「農地はもちろん、集会所や神社仏閣など『生活に必要な場所』としてどの範囲まで除染が認められるかは未知数。国は走りながら制度を設計している」と指摘する。行政区長の60代男性は「帰還希望に『×』をつければ当分除染してもらえない。確固たる帰還意思はなくても『〇』をつける人が多くなれば、『〇』をつけた人の中で、さらに除染の優先順位がつけられるのでは」と予想する。【尾崎修二】
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