[2022_08_26_06]危機迫る ウクライナ原発で作業員が大量脱出、安全性にリスク(CNN2022年8月26日)
 
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危機迫る ウクライナ原発で作業員が大量脱出、安全性にリスク

 ウクライナ・ザポリージャ(CNN) ロシア軍がウクライナ南東部にあるザポリージャ原子力発電所付近の町で砲撃を始めた時、発電所に勤務するエレナさんは脱出するときが来たと決心した。
 エレナさんはロシア軍が3月にザポリージャ原発を襲った後、数カ月間同原発で働き続けていた。欧州最大の原発の運転を続けるため、実質的に人質となった数百人の作業員の一人だった。
 だが、度重なる爆発と幼い息子の命の危険から、リスクを冒しても脱出することを決めた。
 エレナさんはCNNの取材に「恐ろしい」「あそこではすべてが爆発する」と語る。
 CNNはエレナさんの身の安全の懸念から、ファーストネームのみを使用する。
 ウクライナ側はロシア軍が原発を盾として利用し、深刻な被害や大災害を引き起こす危険性があると批判する。これに対しロシア側は、ウクライナ軍が原発への砲撃を続けていると主張する。
 ウクライナのゼレンスキー大統領は24日の国連安全保障理事会に向けた演説で、ロシアが原発を「戦争地域」に変えることで「世界を放射能の大災害の淵へと追いやっている」と述べ、原発の非武装化を訴えた。
 エレナさんは「夜には(ロシア側が)貯水池の背後のどこかで砲撃をしている」「それと同時に大きな車が火を噴くなど、非常に多くの爆発が起きている」と語る。
 原発周辺でのロシア軍の行動が招く結果への懸念から、作業員の大量脱出が進む状況が生まれている。
 まだ原発で作業員として残っているダリアさんは「直近2週間でスタッフの大量脱出があった」「数十人が群れをなして逃げた」と語る。CNNは安全上の懸念からダリアさんの本名を使用していない。
 前述のエレナさんは、原発の作業員が同地にいるロシア軍に恐怖を感じていると語る。兵士らは機関銃を携行して歩き回り、夜には「酒に酔って空に向かって発砲する」という。
 エレナさんは「私の脱出する直前に1人の男性が殺された。それが私の脱出の理由だ」とも語った。
 ウクライナ議会のルビネッツ人権コミッショナーは24日、3月以降ロシア軍の暴行や砲撃で死亡した原発作業員は3人で、少なくとも26人が情報を漏らした疑いで拘束されたと明らかにした。
 発電所に残る人員にとって、状況は日に日に悪くなっている。国営原発運営企業エネルゴアトムのペトロ・コティン社長はCNNの取材にそう語った。
 コティン氏は「とても難しい状況だ」「かれらは本当にヒーローだ。発電所がこのような状況でも勤務を続けている」と話す。
 同氏はまた、ロシア軍が2つのタービン室内部に20台のトラックを入れていると指摘した。最近浮上した映像にはその様子が収められ、CNNも映像を検証済みだ。
 コティン氏は「こうしたトラックには爆発物があると考えている。とても危険だ」と言及。消防隊の入り口が封鎖されている状況のため、火災が起きれば近くの原子炉へと燃え広がる可能性があると懸念を示した。
 同氏はまた、ロシアがザポリージャ原発からの電力をウクライナの送電網からロシアの送電網へとつなぎ変える試みをするだろうとも語った。ただ、それには原発の完全停止が必要で、原子炉の冷却にディーゼル発電機を使用する形となり、かなり危険な作業になるとの見方を示した。
 エネルゴアトムによると、25日には発電所がウクライナの送電網から切り離された。こうした事態は同原発の歴史上初めて。付近で発生した火災により残っている送電線が2度切り離され、「侵略者の行為」が原因だとしている。
 一方、ロシア側が任命した州知事は、同州への送電復旧に向けた作業が進んでいると述べた。またウクライナ軍の行動が電力の供給停止につながったと批判した。
 国際原子力機関(IAEA)は25日遅く、原発の原子炉全6基がウクライナの送電網から切り離されたままだと発表した。

 「力を失った怒り」

 発電所での勤務に危険性が高まっている状況に、残された作業員の精神的なプレッシャーは増している。原発に残るダリアさんによると、自分の部署では10〜15%のスタッフが残っているが、日々「力を失った怒り」を感じながら過ごしているという。
 ダリアさんは「精神的に既にとてもきつい」「いつ、どのように自分たちが脱出できるのかわからない」と語る。
 ダリアさんはまた、原発の技術作業員は事故なく運転を継続するために「不可能なことをこなしている」状況であり、世界は「すべてがどれほど深刻で、どれほど危機に瀕(ひん)しているか全くわかっていない」とも述べた。
 「人間の精神状態は事故につながりうる。我々のような発電所では、非難されるべきは設備ではない。重要なのは人間であり、その決断であり、シグナルや違反、損傷に対する対応だ」(ダリアさん)
 IAEAは今、同原発の運転の安全性を評価するために、原発の緊急査察を受け入れるようにロシアと交渉している。だがダリアさんは、それが実現しても「何も変わらない」と考えている。
 「私の唯一の望みはウクライナ軍だ」とダリアさんは語る。一方で、ロシア軍が来たら何をされるだろうかとの恐怖も抱いている。
 「彼らは『お前たちを破壊する』と言うのが好きで、そのための命令も受けている。それが人々が逃げ出している理由だ」
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