[2022_08_20_01]<東海第二原発 再考再稼働>(46)避難問題 共感得やすい 元龍ケ崎市議・披田信一郎さん(74)(東京新聞2022年8月20日)
 
参照元
<東海第二原発 再考再稼働>(46)避難問題 共感得やすい 元龍ケ崎市議・披田信一郎さん(74)

 原発に反対する住民運動に長く関わってきた。日本原子力発電東海第二原発(茨城県東海村)の運転を差し止めた昨年三月の水戸地裁判決以降の住民運動では、以前は主流でなかった事故時の避難や防災の問題が積極的に語られるようになったと感じる。
 かつては原発の技術的な危険性に焦点を当て、稼働自体を認めてはいけないものという訴え方がほとんどだった。ところが水戸地裁判決は、技術的な危険性や、地震・津波など自然災害の想定の不十分さを指摘した住民側の主張を「差し止めるべきだとまでは言えない」と退け、唯一「実効性のある避難計画の不備」を理由にして差し止めを命じた。そのことが運動にも影響してきている。
 避難の問題は、技術的な問題よりも住民にとって身近に感じられる。例えば私が住む龍ケ崎市は、原子力災害の際、ひたちなか市の住民の避難先になる。何人くらいの避難者を、どこで、どのように受け入れるか。それがどれだけ大変なことかを考えるのは、原発の技術的な危険性よりも具体的に想像しやすい。より広い範囲の住民が当事者性を持つことができる。
 もちろん今でも、そもそも原発を動かさないことが一番の「避難計画」だという考え方は変わらない。ただ、再稼働を阻止する運動の一つとして、避難の問題を訴え、その中で生じている矛盾を指摘することは、多くの人に共感してもらえる手法だと思う。
 実際、現在までに東海第二の三十キロ圏の十四市町村で検討・策定されている避難計画は、実効性とは程遠く、指摘すべき点が多い。
 原電は年内に、避難計画策定の目安となる事故時の放射性物質の拡散シミュレーションを県に提出すると言っているが、これはおそらく東京電力福島第一原発事故と同規模の事故を想定したものになるのではないか。福島第一事故は、誤解を恐れずに言えば、幸運もあってあの程度の放射能放出で済んだ。次に事故が起きれば、その二倍以上の放射能が出る可能性も十分にある。福島と同規模の想定では不十分だ。
 また、東海村には原電が管理する原発以外にも(日本原子力研究開発機構の)東海再処理施設など複数の原子力施設がある。拡散シミュレーションを出すなら、それらの複合災害の可能性も考えないといけない。そこまで含んだ想定を原電がつくれるかどうかは疑わしい。
 東海第二差し止め訴訟の控訴審は、年明けから本格化するだろう。長丁場になる可能性もあるが、裁判では実効性のある避難計画策定が難しいことをしっかりと実証していきたい。
 裁判の外で、自治体に再稼働に同意しないよう働きかけたり、住民に避難計画の不完全性を伝えていくことも重要だ。こうした運動を通じて、原電が再稼働を断念し、最終的には廃炉になるような状況に持っていきたい。(聞き手・長崎高大)

<ひだ・しんいちろう> 1948年、東京都生まれ。和光大人文学部中退。環境問題への関心から、反原子力を掲げる雑誌の記者などとして活動。89年に県内移住。91?2011年に龍ケ崎市議を通算4期16年務めた。「東海第二原発差止訴訟原告団」世話人。「東海第二原発の再稼働を止める会」事務局。
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 次回は十一月中旬に掲載予定です。
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