[2022_08_18_04]猛暑で原発が出力低下?深刻な“電力危機”に直面するフランス(NHK2022年8月18日)
 
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猛暑で原発が出力低下?深刻な“電力危機”に直面するフランス

 記録的な猛暑と干ばつに見舞われているフランス。気温は各地で40度を超し、雨も極端に少なく、頻発する山火事と渇水が人々の暮らしを脅かしています。さらに酷暑は深刻な“電力危機”をも引き起こしています。
 その要因となっているのが実は「川」。
 各地で起きている水位の低下や水温の上昇が電力供給の減少につながっていると聞き、現地に向かいました。(ヨーロッパ総局記者 有馬嘉男)

 川底をさらけ出すガロンヌ川

 訪ねたのは、首都 パリから特急TGVでおよそ4時間の南部の都市、トゥールーズ。
 人口の規模はフランスで4番目、航空機メーカーエアバスが本社を置く航空関連産業の拠点として知られる経済都市でもあります。
 そのトゥールーズの街を二つに分けて流れるのがガロンヌ川です。
 万年雪を抱くピレネー山脈に水源があり、豊かな水で地域を潤してきました。
 ところが、車窓から見える川の流れやせきを落ちる水に勢いはなく、訪れた川辺は乾いた川底をさらけ出していました。例年なら最も降水量が多い5月からほとんど雨が降らず、深刻な水不足となっているのです。
 流域の自治体はガソリンスタンドでの洗車やプールなどへの水の供給を停止。農業用水や家庭向けの供給も時間を限定するなどの厳しい措置をとっています。
 このまま雨が降らなければ、9月にはトゥールーズの街に供給する飲み水にも影響が出るのではないかと、地元では懸念が広がっていました。

 川の水位低下が水力発電に影響

 水不足はフランスの電力供給にも打撃を与えています。
 川の水位が下がり、水力発電所のタービンを回す水が十分確保できなくなっているというのです。
 ガロンヌ川に13ある水力発電所は軒並み出力を大幅に落とし、発電量が30%以上減ったところもあるといいます。

 ガロンヌ河川情報センター ジャン・ミシェル・ファーブル所長
 ファーブル所長
 「ピレネーにあるダムの水を放流して、なんとかやりくりしているが、悩ましいのはこの夏を乗り切るだけでなく、電力需要が高まるこの冬に向けてダムの水は温存しなければならないことです。農業用、産業用とそれぞれの需要をにらんで水量の調整を続けています」
 フランス最大手の電力会社EDFによりますと、フランス全土におよそ2300ある大小の水力発電所の多くが、同じように水量の確保に苦労しており、ことしこれまでの水力の発電量は、去年よりおよそ23%も減少。EDFは「歴史的な低水準だ」としています。
 フランスの電力の10%余りを発電するグリーンエネルギーが、酷暑と干ばつで大きな打撃を受けているのです。

 原発が冷却用の取水に苦労?

 影響は水力だけにとどまりません。
 フランスの電力のおよそ70%を賄う原子力発電所の運転にもおよび始めているというのです。海岸に建てられる日本の原発と違い、フランスの原発の多くは内陸の川沿いに立地しています。
 流れが穏やかで水量も豊かな川の水を使って原子炉を冷やすためですが、その水が十分に確保できなくなるのではと懸念が出ているのです。
 実際、フランス北東部のモーゼル川沿いにあるカテノム原発では川から水を取ることができず、近くの貯水池から急きょ、水をくみ上げて原子炉を冷やし、運転を続ける事態となっています。

 川の水温上昇が問題に…

 さらに暑さによる川の水温上昇が原発の出力低下につながっています。
 フランスでは川の生態系への影響を防ぐため、原発が立地する川の水温には上限が定められ、それを超えると原発の運転をとめるのが大原則になっています。
 ところが熱波に見舞われた7月以降、その水温の上限を超えるところが相次いでいます。
 このため多くの原発が川の水温への影響を最小限に抑えるために、出力の大幅な引き下げを強いられているのです。取材したガロンヌ川のゴルフェシュ原発は1300メガワットある出力を300メガワットに引き下げて運転しています。

 水温制限の規制を緩和してまで原発稼働 なぜ?

 フランスでは今、少なくとも5つの原発がこうした例外的な運転を続けています。
 政府も、本来は運転をとめなければならない原則を緩和し、原発が出力を下げることを条件に運転を続けることを容認しています。
 地域の住民からは水辺の植物や川に住む魚などへの影響を心配する声があがっています。

 ガロンヌ川流域の村長 ジャン・ミシェル・テレンヌさん
 テレンヌ村長
 「電力の確保が大事なのはわかります。ただ異例の運転は、すでにおよそ1か月も続いているのを多くの住民が不安を覚えています。毎年のように異常気象が相次ぐ中でこれが毎年繰り返されないか心配です」

 なぜ、そこまでして原発を動かすのか。
 背景には原発大国フランスが初めて直面する厳しい現状があります。
 全土に56基ある原発のうち、18基が定期検査で、12基が原子炉の配管の腐食という不具合の調査のため運転を停止。実に30基の原発が一斉に運転を停止し、電力供給は大きく落ち込んでいるのです。

 ウクライナ情勢によるエネルギー危機も

 ドイツ ノルドストリーム1(ロシアとつながるパイプライン)
 ヨーロッパはロシアのウクライナ侵攻にともなうエネルギー価格高騰とロシアからの天然ガス削減という深刻な危機に直面しています。
 フランスは、ドイツほどロシア依存は高くありませんが、それでも天然ガスの27%をロシアから輸入しています。ロシアがヨーロッパ向けのガスの供給を減らしているなか、これ以上、原発を止めるわけにはいかないという台所事情があるのです。
 ロシアの侵攻からまもなく半年。ウクライナ情勢はいまだ収束の道筋が見えず、エネルギー危機にも好転の見通しはありません。
 フランス政府は当面、電力の供給に支障がでるような状況ではないと説明していますが、国民にはエアコンの温度制限や夜間のネオン消灯などさまざまな省エネをよびかけるなど、電力のやりくりは一段と厳しさを増しているように見えます。
 猛暑と干ばつは、フランスのエネルギー危機に思わぬ追い打ちをかけるものとなっています。
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