[2022_08_07_01]社説:原発9基稼働 気がかりな前のめり姿勢(京都新聞2022年8月7日)
 
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社説:原発9基稼働 気がかりな前のめり姿勢

 冬場の安定的な電力供給のため、原子力発電所を最大で9基稼働させる―。
 先月の参院選で自民党が大勝した直後、岸田文雄首相は原発の稼働拡大方針を示した。「できる限り多くの原発の稼働を進め、日本全体の電力消費量の約1割相当分を確保する」とも語った。
 発言は電力業界の既定路線を追認しただけで新味はない。とはいえ電力逼迫(ひっぱく)や円安進行、ロシア発のエネルギーショックを逆手に取った「原発回帰」へ前のめりの姿勢が気がかりだ。
 首相は、懸念された今夏の電力供給について「安定供給確保の見通しが立った」と説明した上で、需要が高まる冬に備えた対策として最大限の原発活用に言及した。さらに火力発電の供給能力も「追加的に10基を目指して確保するよう指示した」と明らかにした。
 だが、東京電力福島第1原発(福島県)事故後に長期停止している原発が新たに再稼働する見通しは当面ない。実情は既に原子力規制委員会の審査に合格して再稼働済みの10基のうち、今冬運転できない九州電力玄海4号機(佐賀県)を除く9基でやりくりするということだ。
 しかもこの9基はいずれも西日本に集中している。東日本には新基準に適合した4基があるものの、安全対策工事中で今冬には間に合わない。定期検査中の関西電力美浜3号機(福井県)で放射性物質を含む水漏れが起きるなどトラブルが相次ぎ、稼働は不透明だ。
 経済産業省の電力需給見通しによると、冬場に強い寒波が到来すれば、来年1月は多くの地域で安定供給の余力を示す予備率3%を割り込む。特に東北、東京電力管内が厳しい状況という。首相の再稼働方針は、実際には停電が最も懸念される首都圏の電力需要の緩和には直接役立たないのは明らかである。
 では、何のための原発稼働拡大なのか。来春以降に稼働する原発を増やすことを示唆したとも受け取れる。原発に対する国民の不信感は根強いとはいえ、燃料費高騰や電力逼迫などに便乗して再稼働をアピールしておきたいとの思惑が透ける。
 6月に閣議決定した「骨太方針」に、原発を「最大限活用する」と明記。再稼働を巡り「厳正かつ効率的な審査」という表現で、規制委に審査の迅速化を促す方針も盛り込んだ。
 参院選大勝を弾みにエネルギー政策の「原子力シフト」を一気に進める構えとみられる。
 日本は2050年までに、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出実質ゼロを掲げており、脱炭素社会の実現は避けて通れない。ただ安易に原子力に頼っていいのか。
 原子力災害はいったん起きれば、長期間にわたり甚大な災禍をもたらす。ウクライナ危機は有事の際には原発が攻撃対象にされかねない危うさを浮き彫りにした。
 電力の安定供給は重要だが、安全性や核のごみなどで問題を抱える原発への依存は極力避けねばなるまい。エネルギー安全保障を図るとすれば、燃料を輸入する必要のない再生可能エネルギー活用にこそいっそう注力すべきではないか。
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