[2022_07_25_03] 桜島噴火 噴火警戒レベル5 気象台の現地調査 目立った変化なし (NHK2022年7月25日)
 
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桜島噴火 噴火警戒レベル5 気象台の現地調査 目立った変化なし

 24日夜の爆発的な噴火で噴火警戒レベルが最も高いレベル5に引き上げられた鹿児島県の桜島では、気象台が25日に現地調査を行いましたが、目立った変化は確認されませんでした。
 ただ、山体の膨張を示す地殻変動が観測され、今後も同じ程度の噴火が発生する可能性があるとして、気象台は火口からおおむね3キロ以内で大きな噴石に厳重に警戒するよう呼びかけています。
 鹿児島地方気象台によりますと、24日午後8時すぎ、桜島の南岳山頂火口で爆発的な噴火が発生して大きな噴石が火口から東の方向に飛び、2.5キロ付近まで達しました。
 気象台は、活動が非常に活発化しているとして噴火警報を発表し、桜島では初めて噴火警戒レベルを最も高いレベル5の「避難」に引き上げました。
 気象台は、南岳山頂火口と昭和火口から3キロ以内の有村町や古里町の一部で大きな噴石に厳重に警戒するよう呼びかけています。
 また、火口からおよそ2キロの範囲では火砕流に警戒が必要だとしています。
 気象台は、噴石が飛んだ詳しい場所を調べ、被害の状況などを確認するため、25日午前7時ごろから機動調査班の職員を派遣して現地調査を行いました。
 その結果、桜島の北部から東部にかけて降灰が確認された一方で、小さな噴石は見られず、目立った変化は確認されなかったということです。
 また、ヘリコプターを使って上空からの観測も行いましたが、火口周辺には雲がかかっていて、具体的な状況は分からなかったということです。
 今回の噴火の前には山体の膨張を示す地殻変動が観測されていて、この噴火のあとも山体が膨張した状態は続いています。
 気象台は今後も同じ程度の噴火が発生する可能性があるとして、注意深く監視していくことにしています。

 桜島の有村町と古里町の一部に避難指示

 鹿児島市は、桜島で噴火警戒レベルが最も高いレベル5の「避難」に引き上げられたことを受けて、午後10時20分、桜島の有村町と古里町の一部の合わせて33世帯51人に避難指示を出しました。

 17世帯24人が避難 (25日 午後4時時点)

 鹿児島市によりますと、午後4時の時点で、南岳山頂火口から4キロ余り離れた避難所の高齢者福祉センター東桜島に17世帯24人が避難しているということです。
 市は、桜島の有村町と古里町の一部の合わせて33世帯51人に避難指示を出していて、24日夜対象となっているすべての世帯の避難を確認したと発表しています。
 避難所に避難したあと、親戚や知り合いの家に移動した人もいるということです。
 これまでに、市に被害の連絡は入っていないということです。

 専門家「だんだんと収まっていく方向」

 桜島の噴火活動に詳しい京都大学火山活動研究センターの井口正人教授は、一夜明けた25日の状況について、今の活発な噴火活動が始まった1950年代以降、現在までの67年間に、レベル5への引き上げに相当する噴火はおよそ20回起きていると指摘したうえで、今回の噴火について「地盤変動や地震動、あるいは空気振動といった、いくつかの要素を見たときに、桜島でいえば、とりわけ小さいものでも大きいものでもない、普通の爆発だと認識している」と評価しました。
 そのうえで今後の見通しについては「全体としての活動は67年間の桜島の南岳の状態を見ても依然として低い状態だと評価している。若干収縮気味で動いていて、噴火もやや増えているので、今の感じであればだんだんと収まっていく方向にいっていると見ている」と指摘しました。

 専門家「今後の活動に警戒」

 桜島の噴火について、京都大学の石原和弘名誉教授は「最近の桜島の火山活動の中では規模の大きいクラスの噴火で、噴石が2.5キロ付近を超えたことから気象庁は噴火警戒レベルを『5』に上げたと思われるが、桜島ではこれまでも同様の噴火は過去にも発生している」と述べました。
 また、桜島で今月に入り、山体膨張を示す地殻変動が観測されていたことについて「今回の噴火で山体がある程度、収縮するものと考えられるが、噴煙が収まったあとに再び山体が膨張するようであれば今回と同じ程度の規模の噴火が起きるおそれがあるため、今後の活動に警戒が必要だ」と話していました。

 桜島 最近の活動は

 気象庁によりますと、桜島では今月18日から島内に設置している傾斜計と伸縮計で山体の膨張を示すわずかな地殻変動が観測されていて、今月20日午後3時ごろからは変化がおおむね停滞した状態が続いていたということです。
 このため鹿児島地方気象台は、多量の噴煙を伴ったり、やや規模の大きな爆火的な噴火が発生する可能性があるとして、火口からおおむね2キロの範囲では大きな噴石や火砕流に警戒するよう注意を呼びかけていました。

 桜島 レベル5は2つの噴火を想定

 桜島では噴火警戒レベルの導入以降、初めて5に引き上げられましたが、桜島のレベル5は規模の異なる2つの噴火を想定していて、それぞれ警戒の範囲が異なります。
 このうち1つが、島内の広い範囲に影響を及ぼすような大規模な噴火で、想定されるのは、100年余り前、1914年の大正噴火クラスの噴火です。
 地下から大量のマグマが入り込むことで山腹などから噴火が起きて島内の広い範囲に影響を及ぼすと予想されていて、桜島のある鹿児島市の地域防災計画では住民を島外へ避難させることにしています。
 もう一つの想定は「ふだんの火山活動の延長」による噴火です。
 山頂で噴火が発生し、噴石や火砕流が人が住んでいる地域やその近くに到達した場合にはその距離に応じてレベル5に引き上げて警戒範囲を拡大することにしています。
 このケースでは鹿児島市は全島避難は行わずに、火口に近い一部の地域の住民に島内避難を呼びかけることにしています。
 気象庁によりますと、桜島の周辺の地震計や地殻変動などの観測データを分析した結果、今回、島内の広い範囲に影響を及ぼすような大規模な噴火が切迫している状況ではないということです。

 おととしには噴石が3キロ超飛び落下

 桜島で噴火警戒レベルが5に引き上げられたのは今回が初めてですが、過去にはレベル5に該当するような噴火も起きています。
 おととし6月4日に起きた噴火では、大きな噴石が火口から3キロを超えて飛びました。
 噴石は人の住む地域から100メートル余りしか離れていない場所に落下していました。
 当時の噴火警戒レベルは3で、噴石が飛んだ地点はレベル5への引き上げの基準に該当する範囲でしたが、気象庁が噴石が3キロを超えて飛んでいることを確認したのは噴火から4日後でした。
 気象庁はこの噴火で警戒レベル5に引き上げていませんでしたが、その理由については当初、「噴火そのものがレベル5にあたらず、見逃しでは無い」と説明していました。
 しかし、後日に説明を修正し、「噴火直後に噴石を確認していれば、レベル5に引き上げる事例だった」と述べています。

 岸田首相 早急な被害状況把握などを指示

 気象庁が桜島に噴火警報を発表したうえで、噴火警戒レベルを最も高いレベル5の「避難」に引き上げたことなどを受け、岸田総理大臣は、早急に被害状況を把握すること、地方自治体とも緊密に連携し、人命第一の方針のもと、政府一体となって、登山者や住民の避難など被害防止の措置を徹底すること、それに火山活動の状況について観測を強化し、登山者や住民に対する適時的確な情報提供を行うことを指示しました。
 斉藤国土交通大臣は、25日の災害対策本部の会議で、現地に国と自治体の連絡調整にあたる「リエゾンチーム」を派遣し、情報収集にあたっているが、現時点では現地の施設などへの被害は確認されていないと述べました。
 そのうえで「海上保安庁や緊急災害対策派遣隊=「TEC−FORCE」は、いつでも追加派遣などができるよう、即応態勢の確保をしてほしい。災害対応に万全を期すようお願いしたい」と述べました。

 鹿児島大 地頭薗教授「土石流の警戒レベル高める必要なし」

 今回の爆発的な噴火を受けて、土砂災害が専門の鹿児島大学の地頭薗隆教授は25日午後、国土交通省九州地方整備局の防災ヘリで桜島を上空から調査しました。
 調査のあと地頭薗教授は「桜島の斜面も桜島の東側の垂水市の海潟地区や牛根地区の山地も火山灰で緑がくすんでいるという状況ではなかった。雨による土石流に警戒をしなければならないという状況ではなく、これまでと同じような対応でいいことを確認した。きのうからの噴火で土石流の警戒レベルを高める必要はない」と話していました。
 磯崎官房副長官は25日午前の記者会見で「人的・物的被害は確認中だが、現在のところ被害報告は受けておらず、ライフラインや交通機関の被害報告も受けていない」と述べました。
 そのうえで「政府としては引き続き、被害状況の把握に努め、自治体と緊密に連携を図りながら、災害応急対応に全力で取り組んでいきたい。警戒地域の住民は、自治体や気象庁からの情報、テレビ・ラジオ・インターネットなどの情報に注意して命を守る行動をとり、今後も、噴火に伴う大きな噴石や火砕流に警戒してほしい。風下側では火山灰だけでなく、小さな噴石が風に流されて降るおそれもあるので、注意してほしい」と呼びかけました。

 鹿児島県 塩田知事「関係機関と緊密に連携を」

 桜島の爆発的な噴火を受けて、鹿児島県は25日朝、災害対策本部会議を開きました。
 この中では、現時点で被害の情報は入っていないことや、避難指示の区域内にあるホテルの宿泊客や従業員は24日夜までに避難を終えたことなどが報告されました。
 そして、塩田知事が、関係機関と緊密に連携を取り、被害が確認された場合には迅速に対応を取ることを指示しました。
 会議のあと塩田知事は「引き続き、情報収集に努めていきたい。火口から3キロ以内では大きな噴石に厳重な警戒が必要なので住民には近づかないようにしてほしい」と述べました。

 鹿児島市 下鶴市長「避難生活が問題なく送れるよう全力」

 鹿児島市の下鶴市長は25日朝、報道陣の取材に対し「深夜にもかかわらず円滑に避難を行うことができ、現在のところ、被害も入っておらず、胸をなで下ろしている。避難指示の対象になっている住民については、一定の期間避難が続くことになるので、避難生活が問題なく送れるよう全力を尽くしたい」と述べました。

 鹿児島市 下鶴市長「できればあす中に一時帰宅を」

 また下鶴市長は25日午後、桜島の避難所となっている高齢者福祉センター東桜島を視察しました。
 そして、避難している住民に「夜間の突然の避難で大変な中ですが、警戒レベルが下がるまでの間、体調に気をつけて頑張っていただきたい。皆さんが快適に過ごせるよう努めていくので、何かあれば職員に声をかけてほしい」と伝えました。
 これに対し、住民からは「薬や必要な物資を取りに戻るため、短い時間でいいので一時帰宅ができるようにしてほしい」といった要望が出されました。
 これについて、下鶴市長は視察後、記者団に対し「できればあす中に一時帰宅をできるようにしていきたい」と述べ、気象台や専門家とも協議したうえで、安全が確保できれば、26日にも住民の一時帰宅を実現させる考えを示しました。

 避難の女性「噴火の音も聞こえず においもせず」

 避難している女性は「噴火の音も聞こえず、外を見ましたが、においもせず何も見えませんでした。テレビを見てひどい爆発だったのだと思いました」と話していました。
 別の男性は「避難生活は疲れます。一日でも早く自宅に帰りたいです」と話していました。
 桜島から鹿児島市街地側の病院に通うためフェリーで移動してきた80代の女性は「長いこと大きな噴火はありませんでしたが、今回に続いて大きな噴火が来ないか少し不安です。ただ、噴火には慣れているし、備えもしているので今は落ち着いています」と話していました。

 鹿児島市 幼稚園・保育園 26日以降は通常どおりに

 桜島の爆発的な噴火で一部の地域に避難指示が出されたことに伴い、25日は、桜島にあるすべての幼稚園と保育園が休園となりましたが、鹿児島市は、26日以降は通常どおり受け入れることを決めました。
 また、すでに夏休みに入っている島内すべての小中学校の部活動などの課外活動についても、26日以降は通常どおり行うということです。

 観光業界に大きな影響 キャンセル相次ぐ

 鹿児島県の桜島で起きた爆発的な噴火を受けて、観光業界にも大きな影響が出ています。
 桜島の横山町にある国民宿舎「レインボー桜島」は、南岳山頂火口から5キロ以上離れていて避難指示が出されている地域の外にありますが、24日夜から問い合わせの電話などが殺到し、対応に追われています。
 25日昼までに、宿泊予約のキャンセルはおよそ100人分に上り、中には2か月先の9月の予約をキャンセルする人もいたということです。
 レインボー桜島の担当者は「この先も問い合わせが来ることが想定され、どれくらい増えるか分からない。自然のことなので仕方ない。早くおさまるのは難しいと思うが日常に戻ってほしい」と話していました。
 また、南岳山頂火口から5キロ以上離れた、噴火の歴史などを紹介する観光施設「桜島ビジターセンター」でも影響が出始めています。
 施設によりますと、25日はオープンから1時間ほどたっても訪れる人はおらず、修学旅行の予約も合わせて3件がキャンセルになったということです。
 また、9月までの団体予約についても、キャンセルや延期の連絡が相次いでいるということです。
 施設を運営するNPO法人の福島大輔理事長は「お客さんが誰も来ない状況です。行動制限のない夏休みということで期待も大きかっただけに残念です。桜島は日常的に噴火する火山で、島がすべて観光できないわけではなく、通常どおり観光できるエリアもあることを知ってほしい」と話していました。
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