[2022_07_13_10]福島第一原発の処理水海洋放出、東電の準備工事着手に地元当惑(河北新報2022年7月13日)
 
参照元
福島第一原発の処理水海洋放出、東電の準備工事着手に地元当惑

 東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出に関し、原子力規制委員会の認可が下りる前に、東電は放水設備の準備工事を進めている。認可が不要な工事として福島県なども容認するが、事実上の放出準備の工事着手に対して地元からは戸惑いの声が聞こえる。東電は地元との信頼関係を築く上でも説明を尽くす必要がある。(福島総局・佐々木薫子)
 東電が計画する放水設備は図1の通り。海水で薄めた処理水はいったん5、6号機東側に新設する「立て坑」にためられ「海底トンネル」を通り沖合約1キロ地点の「放出口」から放出される。
 東電は昨年12月、設備設置などの許可を得るため処理水放出の実施計画を規制委に提出した。計画遂行には法令上、規制委の認可が必要。さらに原発立地自治体との協定に基づき、双葉、大熊両町と福島県の事前了解を得なければいけない。
 規制委の認可は今月中が見込まれる。その後に予定される自治体の事前了解に向け、県の主導で審議がすでに進められている。
 東電は実施計画の提出と同時期に、準備工事に当たる「環境整備工事」を開始。東電は「認可が必要な『設置工事』ではない」とし、立て坑の一部の下流水槽の掘削に取り掛かり、現在も放出口地点の海底掘削などを進めている。
 東電によると、工事全体の流れは図2の通り。実施計画では、設置工事が規制委の審査対象として申請され、環境整備工事は実施計画の内容に含まれないという。
 審査対象外の環境整備工事について、規制委と県は「制約する立場にない」と容認。規制委の更田豊志委員長は「必要な工事は進めてほしい」との見解を示す。
 認可と事前了解が下りれば、東電は立て坑をコンクリートで固めたりトンネルを掘ったりする工事を開始できる。
 東電のスタンスは「認可が下りるまではわれわれの責任で工事を進める」。東電廃炉推進カンパニー処理水対策責任者の松本純一氏によると、設置工事の工程はいったん着手すると後戻りが難しく「環境整備工事は万が一、認可が下りなかった場合でも原状回復が可能なところまでとした」という。
 着々と大規模な工事が進められる現状に首をかしげる地元関係者は少なくない。いわき市の漁協理事(55)は「本来なら住民の合意が必要だろう」と指摘。「一部の人だけで物事が決まっていくことに違和感を覚える。(自治体と東電との)協定そのもののあり方を疑う」と話す。
 背景には政府と東電が漁業者らと交わした「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」という約束に反するという事情がある。環境整備工事の開始時、地元漁業者からは「話と違う」との声が上がった。理事は「将来の不安は絶えない。放出準備の前に努力すべきことがあるのではないか」とやり切れない表情を見せる。
 来春に予定される海洋放出に向け、今後は工事の本格化が見込まれる。東電は地元との信頼関係を構築する上でも、理解を得る努力を惜しんではいけない。
 [東京電力福島第1原発の処理水]原子炉建屋に流れ込んだ雨水や地下水が、溶け落ちた核燃料(デブリ)に触れて発生する汚染水を多核種除去設備(ALPS)で浄化し、放射性物質をこし取った水。除去が難しいトリチウムが含まれ、放出前に海水で希釈し、世界保健機関(WHO)の飲料水基準の7分の1(1リットル当たり1500ベクレル)未満に薄める。
KEY_WORD:汚染水_:FUKU1_:廃炉_: