[2022_06_19_01]<2022年5月10日記事の再掲>火山のない能登、観測されていた異例の地殻変動と群発地震(毎日新聞2022年6月19日)
 
参照元
<2022年5月10日記事の再掲>火山のない能登、観測されていた異例の地殻変動と群発地震

 2022/6/19 16:23
 石川県能登地方では、これまで地震が頻発していた。その原因を取材し、5月10日に掲載した記事を再掲する。(記事中のデータなどは、掲載当時のもの)

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 石川県能登地方で、これまでにない地殻変動と、それに伴うとみられる頻繁な地震活動が観測されている。3月には最大震度4の2回を含む計22回の有感地震(人が揺れを感じる震度1以上の地震)があり、この地域の1カ月の回数としては最多となった。専門家は「群発地震」とみている。また、地殻変動はここ3年半の間で隆起が3センチに達し、付近に火山などのない地域では異例といえる現象だ。考えられるメカニズムと地震活動の行方を探った。
 国土地理院は、能登半島先端の珠洲(すず)市で2018年12月以降22年3月までに約3センチの地面の隆起を観測した。一方、政府の地震調査委員会(委員長・平田直(なおし)東京大名誉教授)によると、18年から地震活動が活発になり、21年7月以降著しくなった。同年9月にはマグニチュード(地震の規模、M)5・1の地震があり、珠洲市で震度5弱を観測。20年12月から22年4月11日午前8時までの間に、有感地震が計115回起きた。
 隆起と頻発する地震について、平田委員長は4月の定例記者会見で「能登半島では気象庁の観測活動がある中では同様の地震活動が観測されておらず、初めての経験だ。複数のメカニズムが検討されているが、特定には至っていない」と説明した。国土地理院は想定される地殻変動のメカニズムとして、@地下に大量の流体(水など)がたまり地盤を押し上げたA通常の地震とは異なる仕組みで断層がずれ動く現象「ゆっくりすべり」が起きたB断層の隙間(すきま)に入り込んだ流体が断層を押し広げた――の三つを挙げている。
 「火山のない地域で短期間に突然、地面が盛り上がる現象は珍しい」。能登地方の地殻変動に詳しい京都大防災研究所の西村卓也准教授(測地学)はこう話す。要因については「地下の水によるもの。昨秋ごろまで活発だった隆起が、今年に入り停滞した。地下の流体の形が変わり、地震活動が活発になった北側の断層の隙間に入ってきた可能性がある」として、国土地理院の想定の@からBへ移行しつつあるとみる。断層に水が入ることで滑りやすくなり、地震活動が活発化したとみられるという。
 一方、Aについては「地殻変動の割合から、断層が1メートル以上動いたことになる。それほど大きな変化は世界的に例がない」と否定的だ。
 能登半島は北岸沖に海底断層があり、過去には比較的大きな地震が繰り返し起きている場所だ。1729年の能登・佐渡地震(M6・6〜7)や07年能登半島地震(M6・9)などの例があり、今後もM7程度の地震が起きうるとされる。
 地下の水が群発地震を起こした例は、1965〜70年に長野県で発生した「松代地震」がある。多い日で約600回の有感地震を観測し、地滑りが多発。最終的に大量の水が地表に噴き出し沈静化した。
 西村さんが、能登半島の地下にある水量を地殻変動のデータから推計したところ、20年12月からの1年間で、国内の活動的な火山が1年間に蓄えるマグマの量に相当する200万立方メートル(200万トン)とみられるという。水は高温高圧によって半島の地下深くのプレート(岩板)からしみ出してたまったものとみられる。ただ、松代地震との比較という点では「現時点で震源や流体の存在する深さが異なり、松代は深さ数キロと浅く、今回は10キロより深い。今後の推移を見ていく必要がある」と慎重な見方を示す。
 今後については西村さんは、三つのシナリオを想定する。@数カ月から数年単位で平穏化するA地下の水の浮上とともに震源が浅くなり、マグニチュードは変わらないものの、局所的に大きな揺れを伴う地震を起こしやすくなるB水が断層の強度を下げて、大きな地震を引き起こす――というものだ。「大きな地震が起こりやすい状況になっており、備えを徹底してほしい」と呼びかける。

 一方、違った角度からの分析も進む。

 東大の田中愛幸准教授(測地学)は、「重力」の観測により、地下の流体の種類や動きを明らかにしようとしている。通常の重力の10億分の1の変化を測ることのできる重力計を珠洲市内の廃校に設置し、3月中旬に観測した。地下の岩石の中で流体が動くと微小な重力変化が起きるので、これを測定することで、質量など流体の特徴や変化量が分かる仕組みだ。地盤の隆起の状況に合わせて、今後複数回観測する予定だという。
 田中さんは「症例が少ない珍しい病気の経過と同じで、現時点では予測は難しい。水の動きで地震活動が変化していくことが明らかになれば、地震の起こりやすさが見積もれる可能性があり、今回そうした貴重なデータが得られるかもしれない」と話している。【垂水友里香】
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