[2022_06_17_18]原発事故避難者訴訟 最高裁判決の要旨(日経新聞2022年6月17日)
 
参照元
原発事故避難者訴訟 最高裁判決の要旨

2022/06/17 20:15 2022年6月17日 20:15
 東京電力福島第1原発事故を巡り、国の賠償責任を認めなかった17日の最高裁判決の要旨は次の通り。

 【判断基準】

 公務員による規制権限の不行使は、権限を定めた法令の趣旨、目的などに照らし、不行使が許容される限度を超えて著しく合理性を欠くと認められるとき、国家賠償法上の違法となる。国が国家賠償責任を負うというためには、公務員が規制権限を行使していれば被害者が被害を受けることはなかったであろうという関係が認められなければならない。

 【検討】

 東京電力福島第1原発事故以前のわが国における原子炉施設の津波対策は、津波による敷地への浸水が想定される場合、防潮堤などの構造物を設置することで海水の浸入を防ぐことを基本としていた。経済産業相が、2002年7月に公表された地震予測「長期評価」を前提に、規制権限を行使して、津波による第1原発の事故を防ぐ適切な措置を講じるよう東電に義務付けていた場合には、長期評価に基づいて想定される最大の津波が到来しても1〜4号機の主要建屋の敷地への浸水を防ぐことができるように設計された防潮堤を設置する措置が講じられた可能性が高い。
 08年に東電に報告された長期評価に基づく津波の試算は、当時考えられる最悪の事態に対応したものとして合理性があった。経産相が規制権限を行使していた場合、試算津波と同じ規模の津波による浸水を防ぐ防潮堤の設置が講じられた可能性が高いといえる。
 一方、原発事故以前は、津波による浸水が想定される場合に、防潮堤だけでは対策として不十分との考え方が有力だったとはうかがわれない。したがって、経産相が規制権限を行使していた場合、防潮堤の設置に加えて他の対策が講じられた可能性があるとか、そのような対策が必要だったということはできない。
 ところが、長期評価が今後発生する可能性があるとした地震の規模はマグニチュード(M)8.2前後だったのに対し、現実に発生した東日本大震災の規模はM9.1で、想定される地震よりもはるかに規模が大きかった。試算津波による主要建屋付近の浸水深は約2.6メートルまたはそれ以下とされたが、現実の津波による浸水深は最大約5.5メートルに及んでいる。
 試算津波の高さは、第1原発の南東側前面で敷地の高さを超えていたものの、東側前面では超えることはなく、東側から海水が浸入することは想定されていなかった。だが、現実には津波到来に伴い、南東側だけでなく東側からも大量の海水が浸入している。
 これらの事情に照らすと、試算津波と同じ規模の津波による浸水を防ぐことができるとして設計される防潮堤は、大震災の津波による大量の海水の浸入を防ぐことはできなかった可能性が高い。
 以上によれば、仮に経産相が長期評価を前提に規制権限を行使し、津波による原発事故を防ぐための措置を講じるよう東電に義務付け、東電が履行したとしても、大量の海水の浸入は避けられなかった可能性が高く、今回と同様の原発事故が発生した可能性が相当にあるといわざるを得ない。国が国家賠償責任を負うということはできない。〔共同〕
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