[2022_06_14_03]「原発事故のけじめを」 国の賠償責任、最高裁が17日に初判断(毎日新聞2022年6月14日)
 
参照元
「原発事故のけじめを」 国の賠償責任、最高裁が17日に初判断

 東京電力福島第1原発事故に伴い、避難した福島県民らが国と東電に損害賠償を求めた4件の訴訟(原告数計約3700人)の上告審判決で、最高裁は17日、国の賠償責任の有無について初判断を示す。原告側は、国は事故前に原発の安全神話を広めながら、事故後は「想定外」だったと逃げているとして法的責任を追及してきた。司法の「最後のとりで」の判断は1、2審で審理中の同種訴訟にも影響を与えるため、大きな注目を集める。

「福島の百姓はおしまい」父は命を絶った

 「自然の力にはかなわねえんだ。福島の百姓はおしまいだ」。東日本大震災の巨大津波で浸水した原発が水素爆発を起こした2011年3月12日。福島県須賀川市の農業、樽川和也さん(46)は、爆発の映像を流すテレビニュースを見て父久志さんがつぶやいた言葉を今も鮮明に覚えている。それから12日後、久志さんは64歳で自ら命を絶った。
 久志さんは農家の7代目として約4・5ヘクタールの田畑を守ってきた。次男の和也さんは30歳ごろに後を継ぎ、久志さんの背中を見ながら米作りなどに励んでいた。須賀川市は原発から南西に約65キロと距離があり、国から避難指示は出なかったが、拡散した放射性物質の影響で当時、放射線量は上昇した。
 久志さんはキャベツの生産に力を入れ、有機栽培のこだわりなどが評価されて地元の学校給食の食材に採用された。だが、亡くなる前日、原発事故を理由にキャベツの出荷停止を知らせるファクスが地元の農業団体から自宅に届いた。この時期、畑には約7500株がみずみずしい状態で収穫を待っていた。「おめえに農業継がせて失敗した」。それが久志さんから和也さんへの最後の言葉だった。
 原発事故に伴う風評被害などで受けた損害は、政府が定めた賠償指針に基づき東電側から一定程度補てん(ほてん)された。また、東電は原発事故と久志さんの死との間に因果関係を認めて和解金を支払った。だが、国は法的責任を認めることなく、原発の再稼働を進めている。「何もけじめがつけられていない」。和也さんは国の責任を明確にしたいと、13年3月に福島地裁に起こした損害賠償訴訟の原告団の一員となった。
 訴訟で国は「津波による事故は防げなかった」と主張した。和也さんは「事前の対策が取れないなら、原発を動かすことができるはずはない」と怒りがこみ上げた。地裁は17年10月、国と東電双方の責任を認める判決を言い渡した。2審・仙台高裁判決(20年9月)は「東電の報告を唯々諾々と受け入れ、規制当局に期待される役割を果たさなかった」と1審以上に厳しく国を非難し、賠償額を増やした。
 和也さんは農作業の繁忙期のため、17日当日は最高裁の法廷で判決を聞けないが、「絶対の安全なんてないのに、原発を電力会社に動かさせたのは国。国に責任がないなんてことはあり得ない」と力を込める。そして、「おやじが生きていたら同じ思いで原告になったはず。良い報告ができる判決を期待している」と語る。

国の「規制権限不行使」が焦点

 原発事故を巡る避難者集団訴訟は、最高裁が17日に判決を出す4件を含め全国で約30件(原告総数1万2000人以上)起こされており、これまでに出された1、2審判決は23件。うち12件が国の責任を認めた一方、残る11件は認めず、司法判断はほぼ二分されている。今回の最高裁判決は、今後の1、2審の判断を方向付けることになる。
 焦点は、東電に対する国の規制権限の行使が適切だったか否かだ。過去の公害訴訟などで最高裁は、国が規制権限を行使しないことが「許容する限度を逸脱して著しく合理性を欠く」と言える場合に、国に賠償責任が生じるとの判例を示している。今回の訴訟の1、2審は、この「合理性」の判断に当たり、巨大津波を予見できたか▽事故を回避することが可能だったか――の2点を重視した。最高裁も同様の考え方で結論を導くとみられる。
 原告側は訴訟で02年に政府の研究機関が公表した地震予測「長期評価」に基づけば国は巨大津波の予見が可能だったと主張し、国側は長期評価の信頼性は低かったと反論する。事故の回避可能性については、原告側が防潮堤の設置や建屋に水が入らないようにする「水密化」をしていれば回避できたとする一方、国側は当時の想定に基づく防潮堤を築いても実際に到来した津波は防げず、「水密化」の手法も確立していなかったとしている。【遠山和宏】
KEY_WORD:原発避難訴訟_最高裁_国責任_統一判断_:FUKU1_:HIGASHINIHON_: