[2022_04_07_04]処理水「速やかに放出」15% 風評対策求める声多数 河北新報社世論調査(河北新報2022年4月7日)
 
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処理水「速やかに放出」15% 風評対策求める声多数 河北新報社世論調査

 河北新報社が宮城県内の有権者を対象に実施した原発に関する世論調査で、東京電力福島第1原発の構内にたまり続ける放射性物質トリチウムを含む処理水の処分方法を尋ねたところ、「十分な風評被害対策が示されるまで放出しない」が45・4%で最多だった。
 「タンクを増設して保管を続ける」27・9%、「原発沖合の海に速やかに放出する」15・6%と続いた。政府が2023年にも実施を計画する海洋放出に、県民の多くが依然として課題を感じていることが浮き彫りになった。
 東北電力女川原発が立地する宮城県女川町と石巻市では「十分な風評対策が示されるまで放出しない」51・2%、「保管継続」33・4%、「速やかに放出」7・4%。福島県では漁業者らが海洋放出に反対しており、宮城県でも沿岸自治体が慎重となる傾向がうかがえる。
 処理水の問題自体を知っているかどうかは「知っている」が78・3%で、地域ごとの違いもなかった。福島第1原発に処理水がたまり続けていることや、東電が23年春ごろにタンクの設置場所がなくなると説明していることは、おおむね周知が進んでいる。
 国内や海外の原発は稼働に伴って発生するトリチウムを含む水を日常的に海や大気に放出しており、これを「知っている」と答えた人は74・0%に上った。
 ただ他原発の実情を知っている県民でも、42・2%が「十分な風評対策が示されるまで放出しない」、26・2%が「保管継続」を選び、「速やかに放出」は19・7%にとどまった。
 政府は風評影響の払拭のため、海洋放出が他原発でも行われる処分方法であると強調しているが、事故を起こした福島第1原発からの処理水の放出に関して理解を得るには一層丁寧な説明が必要となりそうだ。

再稼働、教訓生かし熟議を

 【解説】河北新報社が実施した原発に関する世論調査で、東北電力女川原発2号機の再稼働に反対する意見は、初めて6割を下回った。東京電力福島第1原発事故から11年。世界的な脱炭素化の潮流やエネルギー価格の高騰も県民の意識に影響を及ぼしているとみられる。東北電は2号機を2024年2月に再稼働させると表明したが、議論が熟さないまま進められることがあってはならない。
 今回の調査結果には一つの傾向がある。再稼働への反対意見は女川原発が立地する宮城県女川町と石巻市で64・2%、原発30キロ圏内の5市町で58・1%にそれぞれ増加したのに対し、その他の市町村で5ポイント以上減って56・1%となった。
 重大事故時の広域避難計画が「不十分」「どちらかというと不十分」と考える県民は、立地自治体で75・1%、30キロ圏内5市町で67・1%だったのに対し、その他の市町村では8ポイント以上減って56・2%だった。
 原発から離れるほど「安全だ」「十分だ」との声が多くなる。過去の調査では見られなかった特徴だ。再稼働が一部地域の問題に矮小(わいしょう)化されているとしたら、私たちは11年前の原発事故から何を学んだのだろう。
 2月、新型コロナウイルスの影響で住民参加を見送った女川原発での原子力総合防災訓練を、政府は「避難計画の実効性を十分確かめられた」と総括した。
 調査では立地自治体の住民の7割が計画の不十分さを指摘している。こうした地元の不安や懸念と距離を取るような態度が、国民をも侵食しつつある。
 脱炭素は世界の共通目標だ。ロシアのウクライナ侵攻で燃料価格はさらなる高騰も予想される。「だから原発を動かすべきだ」という地球規模の理屈の前で、足元の不安や疑問は簡単にかき消されかねない。
 国や県、東北電はグローバルな情勢に向き合うのと同じかそれ以上に、ローカルの声に誠実に向き合う必要がある。そして県民はローカルの声を上げる役割を諦めてはならない。それは、「国策」に委ねた末に訪れた11年前の帰結から私たちが学んだ教訓だ。(報道部・関川洋平)
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