[2022_03_31_12]特別寄稿 宮城、福島で震度6強 新幹線脱線 状況次第で大事故に 余震 長く続く可能性 武蔵野学院大特任教授 島村英紀氏(東奥日報2022年3月31日)
 宮城、福島両県で3月16日深夜に最大震度6強を観測した地震の規模はマグニチュード(M)7・4だった。2011年に起きた東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)の本震の震源域の中で起きた大きな余震とみていい。
 東北地方太平洋沖地震はM9・0だったから、余震は長く続く。米国では余震が200年以上も続いている例もある。ミズーリ州とケンタッキー州の境で1811〜12年にかけての3カ月弱の間にM8を超える大地震が続けて3回起きた。その余震である。
 東北地方太平洋沖地震規模の大地震だと余震はやはり100年以上続くと思われている。これからも余震が続き、さらに大きなM8級の地震が起きても不思議ではない。東北地方太平洋沖地震のひずみはまだ解消されていないからだ。
 大きな懸念は今回、宮城県白石市で新幹線の脱線事故が起きたことだ。「やまびこ223号」が乗客75人を乗せたまま、白石蔵王駅の約2キロ手前で地震を検知、急ブレーキをかけたが17両中16両が脱線した。車輪の大半がレールから外れているのが確認された。
 04年の新潟県中越地震でも、走行中だった上越新幹線が脱線して傾いたことがある。この列車は長岡駅に停車するために減速中で、フルスピードではなかった。そこにいくつもの幸運が重なった。
 豪雪地帯にしかない排雪溝にはまり込んだまま滑走したこと、現場の線路がカーブしていなかったこと、高架であったためにレールのすぐ脇がコンクリートだったことなどだ。対向列車がなく正面衝突をしなかったのも幸いだった。
 重大なのは地震のわずか3分前に、この列車が長さ約8・6キロの魚沼トンネルをフルスピードで駆け抜けていたことだ。同トンネル内では地震でレールの土台が25センチも飛び上がり、1メートル四方以上の巨大なコンクリートが壁から多数落ちたほか、各所が崩壊していた。地震が列車の通過時に起きていたら、大事故になっていたことは間違いない。
 今回の脱線でも並行する上り線への横倒しなど甚大化は避けられた。だが、福島ー白石蔵王間の高架橋で損傷が見っかった。同区間では、架線をつっている電柱の傾斜や圧壊も起きている。新幹線そのものに耐震補強が施されても、線路が地震に耐えられないとなると、問題は大きい。人命にかかわるような事故にならなかったのは、今回も単に運が良かっただけだといえる。
 日本は地震多発地帯である。今の学問では、いつ、どこで地震が起きるかを知ることはできない。新潟県中越地震や東北地方太平洋沖地震も、前兆を捉えられなかった。
 着工したリニア中央新幹線は全区間の86%がトンネルだ。そして危険はトンネルや橋脚だけではない。阪神淡路大震災では地震に耐えるはずだった新幹線の鉄道橋がいくつか落ちた。もし発生が早朝ではなく運行時間帯だったら大事故になったに違いない。
 高速鉄道は、もしかしたら日本には適さないものかもしれないのだ。

 <しまむら・ひでき 1941年東京都生まれ。69年東京大から理学博士号。専門は地震学。北海道大教授、国立極地研究所長などを歴任。2005年4月から現職。「多発する人造地震ー人間が引き起こす地震−など著書多数>

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