[2022_03_04_14]世界に3つ存在する「殺人湖」(島村英紀2022年3月4日)
 
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世界に3つ存在する「殺人湖」

 「殺人湖」と呼ばれる湖が世界に3つある。いずれもアフリカ東部のカメルーン北部のニオス湖とマヌーン湖とルワンダとコンゴ民主共和国にまたがるキブ湖だ。
 殺人湖と言われる理由は、この3つの湖がいずれも湖水中に二酸化炭素が満ちていて、何かの拍子に二酸化炭素ガスが出てくると、人々を窒息させて命を奪うからである。二酸化炭素ガスは空気よりも重い。周囲の空気を追い出して窒息死させるのだ。
 げんにニオス湖では1986年に湖中の二酸化炭素ガスが噴き出して、近隣の村落の住民1800人が犠牲になった。家畜3500頭も死んだ。
 ニオス湖は周囲6キロメートル。それほど大きくはないが、1立方キロメートルもの二酸化炭素ガスが放出された。
 湖底の水深による加圧下で飽和に達していた二酸化炭素が、急激に水面近くに湧き上がってガスとして放出された。
 日本からも調査団が行った。私の同僚も行った。
 しかし現象は分かったが、なぜ起きたかは分かっていない。
 多くの意見は湖底での地すべりが原因と推定している。小規模な噴火が湖底で起きたためと考えている説もある。アフリカ東部をマグマが貫いているから、この説は荒唐無稽ではない。また別の説では、湖の片側に偏って雨が降ったのが湖水の対流を起こしたという。
 2年前の1984年にマヌーン湖でも二酸化炭素が出てきて住民37人が死亡した事故もあった。
 一方、ニオス湖より2千倍もの広さがあるギブ湖では二酸化炭素とメタンガスが一緒に出る。大量のメタンや二酸化炭素が蓄積されている。
 ギブ湖では、このメタンガスを発電源に使っている、発電設備は水面下約350メートルから二酸化炭素とメタンで飽和した水を吸い上げている。抽出されたメタンはパイプラインで陸上にある施設へ送られ、メタンガスのエネルギーが電気に変換される。発電はルワンダの年間消費電力量の30%を供給している。
 この発電設備はメタン抽出で湖底の圧力が徐々に低下することを期待している。圧力が下がれば、二酸化炭素の噴出のリスクも下がる。
 じつは2021年5月にニイラゴンゴ山(標高3470 メートル)が大噴火した。火山は湖の北岸にある。噴火では溶岩流で32人が死に、建物約1000棟が破損した。約40万人が避難し、ゴマ空港にも溶岩が到達した。
 地震が湖水を揺さぶったときには地元や発電所の技術者は不安に包まれた。万が一、湖のガスが噴出すれば、ニオス湖の事故のような破壊力を持つことになりかねない。
 幸い、ガスの噴出はなかった。二酸化炭素が溶け込んでいる層に到達する前に溶岩が冷えて固まってくれたのだ。
 ニオス湖でも5本のパイプを通してガスを放出するため、2001年から対応策がとられている。湖中の二酸化炭素を減らす目的である。
 キブ湖にたまっている膨大なメタンガスが枯渇する時期は、抽出の速度にかかっている。ギブ湖でもニオス湖でもガスが本当に減るには何世紀もかかるといわれている。
 気の長い計画なのである。
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