[2022_03_04_03]ロシアのウクライナ侵攻で放射能汚染の危機 戦闘地域に15基の原子炉(ウクライナでは原発が9基稼働中) 戦時下に「原発を守る」ことの困難さ 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ2022年3月4日)
 
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ロシアのウクライナ侵攻で放射能汚染の危機 戦闘地域に15基の原子炉(ウクライナでは原発が9基稼働中) 戦時下に「原発を守る」ことの困難さ 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

 ◎ 原発に侵攻するロシア軍

 ロシアのウクライナ侵攻が続いている。
 この侵攻は、原発を紛争の最前線に置いてしまった。
 世界は、本格的な無制限の通常戦争が原子炉を破壊し破局的な事態を引き起こし、これまでにないほどの局地的な原子力緊急事態を引き起こすリスクを過小評価してはならない。
 この脅威は、いま現実に起きていることだ。
 ウクライナの電力は原発に大きく依存している。
 国内には4カ所に原発があり15基の原子炉がある。
 また、チェルノブイリ原発の破壊された建屋やデブリを管理している。
 大規模な戦争では、ウクライナの原発15基すべてが危険にさらされるうえ、チェルノブイリ原発事故により汚染された地域の森林や土壌が、戦闘行為によりかき乱され、沈着している放射性物質が再拡散することになる。

◎ チェルノブイリ原発で一時空間線量が突出

 実際にチェルノブイリ原発周辺の空間線量率が、これまでの毎時約8マイクロシーベルト(これでも東京の平均0.08の約100倍)から一時、実に毎時93000マイクロシーベルトに上昇した。
 2月25日のことだ。
 その後、測定データがインターネット上で見られなくなり、3月1日に復旧した時には毎時8マイクロシーベルト(年換算で約70ミリシーベルト)に戻っていた。
 実際はどうなのか、これに呼応するようにキエフの線量もずっと上がり続けている。
 これまで、国際社会においては、紛争地帯の原発の経験は極めて乏しいことを認識しなければならない。
 これまでに世界が経験した原発重大事故は、チェルノブイリ原発事故と福島第一原発事故の2件だけだ。ロシアの侵攻とウクライナ全土での通常戦争の継続により、国際原子力機関による「レベル7」の事故が数日のうちに複数の原発、原子炉で同時多発的に発生する可能性がある。
 このような緊急事態の発生で、大規模な人的被害を引き起こし、ウクライナ又は周辺諸国の土地の大半を長期間にわたり居住不可能にする可能性がある。

◎ 原発を軍事戦略に使う愚

 ウクライナでの原発の健全性は戦略的な問題である。NATO加盟国であれ非加盟国であれ、極めて重要である。
 戦略目的のために重大な放射線災害を引き起こすことなど容認できない。
 それは、いままさしく出現しつつある核の大惨事を意図的に激化させたり、軽減措置を妨げたり、まして原子炉を意図的に溶融させて欧州の広範囲を汚染させたりすることなどは、単に爆弾を使わない核戦争である。
 そのようなシナリオが実際に起こり得ることは否定できない。
 ザポリージャ原発は特に危険だ。これは欧州で2番目に大きな原発で、既にロシアが実効支配しているクリミア半島にも近く、ロシア軍の侵攻が始まったとたんに最前線の地域になっている。
 6基のVVER−1000加圧水型軽水炉はロシアの侵攻に簡単に巻き込まれる可能性がある。
 すなわち、戦闘はすぐそこまで迫っている。ザポリージャ原発は、ドンバス地域の現在の「前線」からも、わずか200キロ程度のところにあり、ロシアが実効支配しているクリミア半島からも目と鼻の先。
 防御が困難なドニエプル川東岸に面している。
 この発電所はウクライナの総電力の約4分の1を供給している。電力の重要性を考えると、発電所の管理者は発電所を停止することに消極的になり、可能な限り最後の瞬間まで原子炉を動かし続けることになるだろう。
 ウクライナのエネルギーに対する切迫した需要は、事故の機会を増やすだけだ。
 一方。ロシア側もウクライナの電力生産システムを押さえることで、戦争を有利に導こうと考え、早々に原発の制圧を狙うであろう。
 直接的な戦闘行為以外では、サイバーやその他、ロシアが発信源の「グレーゾーン」戦略の被害は、戦闘部隊が原発ゲートに到着する前でさえ、発電所を管理不能にする可能性がある。

◎ 事故が起きても緊急時対応は不可能

 実行される可能性が低いとしても、直接的な爆撃は、原子炉格納容器に深刻な損傷を引き起こす恐れがある。また、発電所での戦闘は人員を殺傷し、指揮統制システムや監視センサー、重要な原子炉冷却施設を破壊するだろう。
 また、運転中の発電所としては原子炉だけが脅威ではない。使用済核燃料は脆弱なプールに置かれ、さらに167基の乾式使用済燃料集合体に置かれている。
 原子炉に運転上の異常が生じても、緊急時対応は行われない。
 原子炉の管理に必要な支援体制は、武力紛争時には崩壊する。
 発電所の保安部隊は姿を消し、運転員は逃げ出し、事故が発生すれば緩和策も実行不可能になる。
 ではロシアは、訓練を受けた原子炉操作員を動員し、占領した発電所を引き継ぐために原子炉危機管理チームを編成する可能性はあるのだろうか。
 チェルノブイリ原発事故と福島第一原発事故で、被害を低減、収束するために活動を行った人々は、戦争地帯では決して動員できない。

 ※≪事故情報編集部≫より
  この文章は、3月3日に届いたものです。
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