[2022_03_03_03]ウクライナ侵攻 対応迫られる九電・西部ガス(産経新聞2022年3月3日)
 
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ウクライナ侵攻 対応迫られる九電・西部ガス

 ロシアによるウクライナ侵攻で日米欧を中心に各国が対露経済制裁を打ち出す中、九州企業も情勢分析を急ぐなど対応に追われている。欧米のエネルギーメジャーがロシア国内の権益を放棄する方針を発表するなど民間も呼応するが、資源小国の日本にとってエネルギー調達の不安定化は国難に直結する。九州電力や西部ガスなどが難しい判断を迫られる局面もありそうだ。
 九電、西部ガスはともにロシア極東サハリンでの石油・天然ガス開発事業「サハリン2」から、液化天然ガス(LNG)を輸入している。
 九電は、インドネシアとオーストラリアに続く第三極としてロシアから平成21年から輸入し、令和2年度実績では輸入量の12%を占める。マレーシア産LNGの長期契約が主力の西部ガスも、3年度計画でガス原料の約8%程度がロシア産となっており、いずれも一定の存在感がある。

 ■相次ぐメジャーの離脱表明

 ウクライナ侵攻を受け、欧米のエネルギーメジャーは相次ぎロシアのガス事業から撤退する方針を表明している。
 英石油大手BPは、保有するロシア石油大手ロスネフチの全株式売却を発表。シェルも、サハリン2について、ロシアのガス大手ガスプロムとの提携解消と撤退を明らかにした。業界関係者は「英ジョンソン首相は今回、『強いイギリス』を示そうと欧州諸国の中でも強硬姿勢が際立つ。2社には英国政府から相当強い圧力があったのだろう」との見方を示す。米石油大手エクソンモービルなども英国2社に追随する。
 サハリン2には日本の商社、三井物産と三菱商事が参画する。両商社はまだ対応について明確な決定は下しておらず、九電、西部ガスも情報収集を続ける。メジャーの「脱露」によって調達面での不確実性は高まるが、両社トップは「悲観的には見ていない」(池辺和弘・九電社長)、「今のところ支障はないだろう」(道永幸典・西部ガス社長)と冷静に受け止める。
 その理由はまず、両社が今年度分のロシア産LNGを既に受け入れてしまっていることだ。来年度分も、ウクライナ危機前からのLNG市況の高騰を受け、ロシア以外から既存契約の枠内で最大限受け入れるための交渉や、スポット市場での追加調達の検討を含め手を打っていた。コスト増は不可避でも、最悪の事態である燃料不足は避けられる見込みだという。

 ■影響は限定的?

 さらに資源貿易に関わる関係者からは、欧米メジャーの「脱露」姿勢について「撤退時期や方法などを明確にしていない」として実効性を疑問視する見方も出ている。
 これを裏付けるように、金融制裁の一環である国際決済ネットワーク、国際銀行間通信協会(SWIFT)からの排除について、欧州連合(EU)は2日、ロシア最大手ズベルバンクや、ガスプロムに関係するガスプロムバンクは対象としないことで合意した。
 EUは、天然ガス需要の約3分の1をロシアからパイプライン経由で輸入している。脱原発・石炭火力の徹底と再生可能エネルギーの導入拡大の中、需給調整能力を持つ電源として天然ガス火力の存在感が高まるドイツを筆頭に、需要は増大傾向が続く。決済面などに起因し天然ガス供給が滞ればエネルギー危機に陥る。
 この関係者は「制裁の返り血を浴びるどころか、刀を振るった本人が失血死しかねない。天然ガス以外の希少資源も含め完全な『脱露』を実行することはとても難しい」と指摘する。

 ■新プロジェクトの行方は

 それでも侵攻への毅然(きぜん)とした対応は避けられない。既存の契約や関係性ですら変更圧力が高まる中、特に新規のプロジェクトに対する投資家の目は確実に厳しくなる。
 その点で対応を迫られるのは西部ガスだ。調達とは別に、LNGの国際取引にも進出した同社は、ロシアのガス生産・販売大手ノバテクとの関係強化をテコに事業拡大を目指していた。
 昨年11月には、ノバテクが北極海域で生産した天然ガスを、西部ガスのひびきLNG基地(北九州市若松区)を経由して中国に輸出する事業で基本合意。両社は合弁会社設立に向けた交渉も進めているところだ。
 西部ガスとしては、ひびき基地の稼働率向上と新たな収益が見込めることから有望視していた。また、北極海域での天然ガス開発はロシア政府肝いりの事業で、ノバテクとの関係強化は北方領土交渉の進展とリンクさせた経済協力の一環として日本政府からの後押しもあったという。そうした事業環境はロシアのウクライナ侵攻で一変した。
 西部ガス幹部は、ノバテクとの事業について「進んでいないが、止まってもいない。政府からも何も言われていない」と語る。確かに当面は「寝た子」として起こさないままでいられるかもしれないが、いずれは決断を迫られることになる。(中村雅和)
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