[2022_03_01_06]プーチンによる「核の威嚇」は許されない 核兵器を臨戦態勢に置く危険を直視すること 米国のデフェンス・コンディション引き上げに反対する 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ2022年3月1日)
 
参照元
プーチンによる「核の威嚇」は許されない 核兵器を臨戦態勢に置く危険を直視すること 米国のデフェンス・コンディション引き上げに反対する 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

 2月27日にプーチン大統領は、NATOの首脳などが発した声明や各国が実施を決めた対ロシア経済制裁に対し、核戦力を含む核抑止部隊を「高度の警戒態勢に置く」よう軍司令部に命じたという。
 これは「戦略抑止戦力」すなわち戦略攻撃力と戦略防衛力が含まれる。これらの戦略核兵器を特別態勢に移行することを命じた。
 具体的には、大陸間弾道ミサイル(ICBM)や北方艦隊及び太平洋艦隊所属の戦略原潜及び巡航ミサイル搭載原潜、戦略爆撃機、原子力巡洋艦などを指すと見られる。
 これは、「核兵器の即応態勢レベルの水準を上げる」行為であり、巡航ミサイルなどの通常兵器のみならず戦略兵器を含む核兵器を臨戦態勢に置くことを意味する。
 プーチン大統領は国営テレビで「西側諸国はわが国に対し、経済分野で非友好的な手段を取るだけでなく、NATO主要国の首脳らはわが国について攻撃的な声明を出した」などとし、この態勢を自ら正当化して見せた。

◎核兵器の応酬は絶対にしてはならない

 これに対して、トーマス・グリーンフィールド米国連大使はCBS番組のインタビューに答え「まったく受け入れられない形でこの戦争をエスカレートさせるつもりのようだ。われわれは可能な限り強い手段で彼の行為を止める」と述べたという。
 これが、米国の「デフコン」のレベルを引き上げることを意味するのであれば、断じてしてはならない行為だ。
 一方、ホワイトハウスのサキ報道官はABCのテレビ番組で「ロシアが侵攻を正当化するためのプーチン大統領の脅し文句」としたうえで「ロシアがNATOの脅威にさらされたことは全くない」と語ったという。
 核には核で対抗しないとの意味ならば歓迎できることだが。

◎「デフコン」とは …引き上げてはならない

 米軍の核兵器即応態勢がどの水準にあるかを示すのが、いわゆる「デフコン」デフェンス・レディ・コンディション・レベルである。
 全部で5段階あり、最高がデフコン1、これは過去に設定された例はなく、核戦争または核戦争が差し迫っている状態を指す。
 過去の冷戦時代は常にデフコン3、このときには戦略爆撃機や中距離ミサイルにも核弾頭を搭載し、臨戦態勢を取っていた。
 過去に最も高い水準に上げられたのはキューバ危機の時のデフコン2(ただし部分的)だった。
 2001年の9.11においては、デフコン3に引き上げられた。

◎「デフコン」を引き上げれば偶発核戦争のリスクが増える

 米ソ冷戦時代に、双方が爆撃機やミサイル弾頭に核兵器を搭載したまま待機する時代(いわゆるトリガーに指を掛けた状態)があった。
 この状態に置かれた核兵器は、往々にして「偶発的な発射」または「核攻撃と誤認した発射コードの入力」そして「無関係の飛翔体などを相手の核攻撃と誤認した攻撃命令の発出」など、極めて恐ろしい事件が何度も起きた。
 さらには、核弾頭を海中に落下させたり、核弾頭を搭載したまま沈没・墜落・落下した潜水艦や航空機もあった。

 それは米国本土に配備された核兵器だけではなく、1960年代、日本復帰前の沖縄に配備されていたメースBというミサイルでも事故が起きていた。
 これらは一つ間違えば核戦争に発展していた可能性も否定できない。米ソが核兵器を臨戦態勢においていたことも原因の一つだった。

 今回、プーチン大統領が核兵器を「臨戦態勢に置く」命令を出したと報じられているが、これが何を意味するかは、過去の歴史が証明している。
 米軍はこれに呼応してはならない。「デフェンスコンディション」を引き上げてはならない。

◎「核の脅しには屈しない」
 「核戦争をエスカレートさせない」
 「核の先制不使用を核武装国に約束させる」といった取り組みを進めるほか、対策はない。
KEY_WORD:ウクライナ_原発_: