[2021_12_24_01]東京電力の汚染水処理に関連して 「放射線影響評価報告書」に対する「意見募集」に送った文書を紹介 (上)(3回の連載) 福島第一原発事故による汚染水対策は破綻状態にある 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ舎2021年12月24日)
 
参照元
東京電力の汚染水処理に関連して 「放射線影響評価報告書」に対する「意見募集」に送った文書を紹介 (上)(3回の連載) 福島第一原発事故による汚染水対策は破綻状態にある 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

項目紹介
1.汚染水処理対策の失敗を認め組み立て直すべき
  汚染水対策は破綻状態にある
2.タンク貯蔵は限界と言うが敷地はある
3.福島第一原発事故の放射能の影響を総合的に検証すべき
4.原子力推進のIAEAの見解や評価は認められない
  (上)に掲載
5.国の委員会の報告書はあくまでも参考意見に過ぎない
6.タンク貯蔵のリスクなど「為にする論」である
7.公聴会や意見募集では大半が放出反対だったことを無視している
8.権限のない閣議決定に従う必要などはない
9.汚染水を「安全な水」?とんでもないデマである
  (中)に掲載
10.原子力産業の専門家を集めて安全宣言をするなど
  福島の教訓はどこに?
11.濃度1500Bq/L規制は「安心感」のためなどではない
12.失効した管理目標値まで放出する計画の矛盾
13.生物濃縮はないとする評価の前提は間違っている
  (下)に掲載

はじめに
 東京電力は、11月17日から12月17日にかけて『「ALPS処理水の海洋放出に係る放射線影響評価報告書(設計段階)」に対する意見募集』を実施しました。
 『政府の「東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所における多核種除去設備等処理水の処分に関する基本方針」(2021年4月13日、廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議)にて示された方針を踏まえ、「ALPS処理水の海洋放出に係る放射線影響評価報告書(設計段階)」のさらなる充実のため、ご意見を募集し、今後、本報告書の見直しにあたっての参考とさせていただきます。』として、意見募集を行ったのですが、「報告書」の前提となっているのは汚染水を海水で薄めて海洋に放出するというものですから、その是否を問うものならば意義はあると思いますが、環境影響評価の部分にだけ意見を求める形式になっていて、これは納得できません。
 また、汚染水を「ALPS処理水」というのならばまだしも、文中では「安全な水」などと表記しており、あらかじめ大きくバイアスをかけています。
 「安全な水」を海に流しても安全であることには間違いないでしょう。
 このような立場で書かれた文書が、評価報告書という名で公開されていることに驚きを禁じ得ません。
 東電の姿勢は、いまさらながらに恐ろしいと感じました。
 すでに締め切りは過ぎ、現在は意見の取りまとめをしているのでしょうが、汚染水の海洋投棄に反対する意見を送ったので、メルマガで紹介します。

 「ALPS処理水の海洋放出に係る放射線影響評価報告書(設計段階)」に対する意見
 1.汚染水処理対策の失敗を認め組み立て直すべき
   汚染水対策は破綻状態にある 

1P「はじめに」
 『当社は、重層的な対策1により、現在では汚染水が建屋外に漏えいしないよう管理するだけでなく、その発生量自体を、日量約540立方m(2014年5月実績)より約140立方m(2020年実績)まで低減し、さらに2025年には同100立方m以下に抑制することを目標としている。』

◎ 残念ながら、汚染水対策は破綻状態にある。
 「重層的な対策」などは機能しておらず、実質的にはサブドレン井戸をくみ上げて毎日海洋放出することで建屋侵入量を減らしているに過ぎない。
 つまり「サブドレン一点の効果」であり、残りの対策はサブドレンまでの地下水を抑制しているに過ぎない。サブドレンが機能していた時代、つまり2011年3月11日以前は、建屋最下部以下まで地下水位を下げていたのだから、今もそれは可能である。
 凍土壁や地下水バイパスがなくても地下水量はコントロールできるはずである。

◎ 本来は2020年度(2021年3月31日)には汚染水発生量は日量20トン未満に低減させる計画であったが、これが失敗したため2017年に計画を改め、汚染水の発生を日量140トン未満としているのである。
 これでは永遠に汚染水の発生は止まらないため、仮に海洋放出を始めたとしても、40年後とされる廃炉完了時点にデコミッショニングできていなければ汚染水は発生し続けていることになる。

◎ 汚染水対策は2012年段階の計画通りならば、増加量は最大80トンまでで止まり、今は貯蔵していれば良い段階であった。
 このことを総括し、何が失敗だったのかを明確化しなければならない。最初にすべきは何が失敗だったかの検証である。
 2025年段階については、日量100トンではなく日量ゼロトンを目指すべきである。

 2.タンク貯蔵は限界と言うが敷地はある

2P「はじめに」
 『2021年6月時点でALPS処理水等とストロンチウム処理水を貯蔵するタンクは1,047基あり、設置済みの容量約137万立方mに対し、保管量は約126.5万立方mとなっている。汚染水発生抑制対策の効果や今後の汚染水発生量の予測について慎重に見極めていく必要はあるものの、これまでの汚染水発生量の実績を踏まえれば、2023年春頃には計画した容量に達する見込みである。』

◎ なぜ、137万トンまでしか貯蔵しない計画を押しつけられなければならないのか。この数値が元になって「2023年」までに海洋放出を開始しなければならないことにされている。
 しかしそんなことを押しつけられるいわれはない。
 また、東電の計画であっても増設を余儀なくされるケースはいくらでもあり得る。
 例えば2019年10月のハギビス台風では多くの汚染水が発生している。
 このような災害に見舞われただけでも大量の雨水が流れ込んでしまう。
 2023年に拘らず、137万トンを超える量を貯蔵する仕組みは必要である。

 3.福島第一原発事故の放射能の影響を総合的に検証すべき 

2P「はじめに」
 『国が2019年12月の廃炉・汚染水対策関係閣僚等会議で改訂した「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」に示したとおり、福島第一原子力発電所における廃炉作業は、すでに顕在化した放射性物質によるリスクから、人と環境を守るための継続的なリスク低減活動である。今後、数十年に及ぶ福島第一原子力発電所の廃炉に向けた長期の工程の中には、燃料デブリの取り出しや、使用済燃料の一時保管場所の確保といった、より大きな放射線リスクを抱える諸課題への対応が必要であり、これらの諸課題に的確に対応していくため、中長期的観点から総合的なリスクを着実に低減させることが不可欠である。』

◎ 事故発生以来10年以上経つ現時点においてさえ、放出された放射性物質の広範な影響評価は一切されていない。
 大規模な汚染による人や環境への影響についてまず評価するべきである。
 それ以後の影響は、累積された放射性物質の影響として生じるのであるから、初期値が明らかにされていないところで、その後の評価をしても有意な影響を見いだすことは出来ない。
 つまり、はじめから影響はないとの前提に立っているのではないかと考えられる対応をしているので、極めて不誠実である。

 4.原子力推進のIAEAの見解や評価は認められない 

3P「はじめに」
 『国は2013年から2021年にかけて、5回にわたりIAEAの廃炉ミッションを受け入れ、その見解を検討に反映してきた。IAEAの廃炉ミッションは、ALPS処理水の処分計画の重要性を指摘してきた。IAEAは、2015年の報告書において、タンクによる保管は一時的な措置に過ぎないと評価した上で、より持続可能な解決が必要であると指摘した。その後、2019年の報告書においては、更なる必要な処理を実施した上で、ALPS処理水が速やかに処分されなければならないとの見解を示した。』

◎ IAEAにとっては汚染水の海洋放出は既定路線であり、当初からタンク貯蔵を排除して処分計画という名の海洋放出路線を前提としてミッションを行っていることが明白である。
 「IAEAもそういっているから」との、バイアスのかかった立場を取り入れていたのでは、国内外で、原子力産業による利益を享受していない人々や、特に被災者にとって何ら参考になる見解にはならない。
 最初からボタンの掛け違いが起きる構図である。
 IAEAは独立した中立機関などではなく、単に原子力産業の利益の代弁と国家間の利害調整をしているに過ぎない。私たち市民にとって何の評価対象にもならないことを認識していただきたい。(中)に続く

KEY_WORD:汚染水_:廃炉_: