[2021_10_08_31]メルボルンで「まれ」な地震(島村英紀2021年10月8日)
 
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メルボルンで「まれ」な地震

 オーストラリアの第二の都市メルボルンで9月下旬にまれな地震があった。建物の外壁が崩れて路上に散乱した。地震に慣れていない住民はパニックにおちいった。
 震源は180キロほど離れたビクトリア州マンスフィールド付近。マグニチュード(M)は6.0、震源の深さは10キロだった。幸い、震源の近くでもメルボルンでも人的な被害はなかった。
 オーストラリアはプレートの中央にあるために、隣国ニュージーランドと違って大きな地震の発生は極めてまれだ。このため、長年この規模の地震は起きなかった。
 世界には「一回きりの地震」がある。
 たとえば1755年にポルトガル沖に起きたリスボン大地震もその仲間だ。M8.5から9.0の巨大地震だった。
 欧州史上最大の自然災害になった。地震の揺れや地割れによる被害に加えて、約40分後に襲ってきた大津波が市街地を呑み込んで被害を拡げ、さらに火事が燃え広がったのだ。当時のリスボンの人口28万人のうち9万人もが死亡した。
 この地震は18世紀の神学や哲学にも強い衝撃が及び、ヨーロッパ全体の政治や経済や文化にも大きな影響を与えた。
 この地震がなぜ起きたのかはいまだに分からない。ここはプレート・テクトニクスから見ると地震が起きそうもないところなのだ。
 また、スイス北部にある大都市、バーゼルが壊滅したことがある。1356年に起きた。この地震でバーゼルの市街地は壊滅的な被害を受けた。近隣30キロメートル以内の城や教会も倒壊した。この地震のMは7.1だったという研究もある。
 もともとスイスには大地震は少ない。この地震より前に大地震が起きた記録はなく、その後現在に至るまで、この近辺に大地震は起きていない。
 米国に起きたニューマドリッド地震も、起きそうもないところに起きた地震だ。プレートの境界から遠い米国東南部で1811年から1812年にかけてM8の巨大な地震が複数回起きた。以後は余震以外の地震は起きていない。
 いまから1万年前に終わった氷河時代の氷河が融解した「後遺症」という学説があるが、真偽のほどは分からない。
 ところで、最近増えてきたものにシェールガス関連のものがある。
 シェールガスの採掘によって、地震が起きそうもないところで地震が起きることがある。米国のオクラホマ、カンザス、コロラド、ニューメキシコ、テキサス、アーカンソーの多くの州やカナダなどで地震が起きている。いずれもシェールガスの採掘が最近盛んになったところだ。M3以上の地震が、21世紀になって20世紀の平均の6倍にも増えているのだ。
 これらの地震は、いずれにせよプレートの「中」で起きていて、日本のような「プレートの境界」ではない。ポルトガルでも、スイスでも、米国でもそうだ。
 起きそうもないところに地震が起きるとは、一見不思議に見える。
 だが、プレートの中にも地震のエネルギーが溜まっていると考えざるを得ない。なにかの具合で地震が起きることはあり得ることなのである。
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