[2021_10_05_05]東電本店に核物質防護に係るマニュアルがない…など 柏崎刈羽原発のID不正使用と核物質防護設備の損傷放置について 9月22日の東電報告書に見る重大な劣化と安全神話の発現 東京電力に核物質を扱う資格はない (その2)(4回の連載) 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ舎2021年10月5日)
 
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東電本店に核物質防護に係るマニュアルがない…など 柏崎刈羽原発のID不正使用と核物質防護設備の損傷放置について 9月22日の東電報告書に見る重大な劣化と安全神話の発現 東京電力に核物質を扱う資格はない (その2)(4回の連載) 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

 
5.東電本店に核物質防護に係るマニュアルがない…

 報告書には重大な事実が記載されている。本店に核物質防護に係る基本マニュアル等が存在しないというのだ。
 各発電所や現場管理施設において「それぞれの発電所長の権限で制定した核物質防護規定運用要領や、これに基づく出入管理要領や警備要領等」があるだけ。
 ではそれはいったい何を元に事業所のマニュアルは作成されているのか。
 基本文書がなくては、本店原子力管理部を始めとした法務担当及び規制委員会とのやりとりをする本店勤務職員には管理規程の内容や運用を認識する機会がない。
 つまり核物質防護上の問題が生じた場合、「基本に立ち返る」元がないので、3.11のような事態になった場合に、当時、本店原子力業務部が現場の状況を把握できなくなったことと同種の事態が生じる。
 3.11の経験があるにもかかわらず、このような体制が続いてきた深層原因を掘り下げるべきだが、そうした視点での調査はされていない。
 なぜ、そのような体制が作られてきたのか、それは本店では発電所の統制をする気がないからだ。する能力もないのだろう。
 東電体質とは、こうしたところにも現れている。

6.お題目だけの核物質防護活動

 報告書には「核セキュリティ文化の醸成に係る活動」などと書かれている。
 しかし、計画立案や行動計画を策定し報告することしかされていない。
 これらに例えば設備の劣化などの具体的な報告事項やセキュリティシステムの機能喪失などを想定した実施計画などが制定されていたとは考えにくいので、今回のような事件が起きた場合、これらを見ても、生じた事態への対処が正当なものかどうかまで判断できるような存在ではないと思われる。
 行動計画とはいったい何か、計画には核物質防護の劣化、破壊という事態にどのように対処するかを網羅しているのか、そうした実態が報告書には記載されていないので、何のために何を調べたのか良く分からない代物になっている。

7.本店での核物質防護活動主体の欠落

 また、核セキュリティ対策部会の活動について本店では「原子力・立地本部長を委員長とし、核セキュリティに関する活動が有効に行われていることを確認」とされているが、これは会合が開催頻度は年1回以上開催されたという以上に、どのように「有効に行われて」いたか不明だ。
 また、「核セキュリティ管理に関する重要事項、管理状況、活動計画と実施状況、その他」としているが、ここに侵入監視システムの劣化について報告があったのか。具体的な記載がないため全く不明だ。本店のこの組織も機能していない。

8.経営トップには報告が行かない規定?何のための組織か

 さらに、重大なことが書かれている。
 「核物質防護業務に関するレビュー・報告」(報告書18頁、以下同じ報告書の当該箇所を示す)において「運用要領において、社長および原子力・立地本部長に対して、不適合等の報告を行うことは規定されていない。」と記載されている。
 いかなる理由で経営層に伝えないのだろうか。
 「核物質防護業務は、職制および職務権限規程上、発電所の分掌とされ、業務に関する責任と権限は発電所長が有している。
 社長、原子力・立地本部長には、核物質防護業務に関する具体的な定めはなく、社長は会社業務の執行を統括、原子力・立地本部長は本部内の統括および総合調整と規定されている。」という。
 ここでも、3.11の教訓が全く生きていない。
 原発の安全性にかかわる重要事項について報告されていなかったと抗弁し、刑事裁判でも株主代表訴訟でも責任を免れようとした勝俣恒久元会長以下の旧経営陣の主張と何ら変わりない。
 核物質防護の劣化、破綻は、即原発の安全性低下、重大事故や破壊につながるから、めずらしく規制委も事実上の運転停止命令をだした。
 これは福島第一原発事故前の、地震や津波情報が経営層に届いていなかったことになっていることと同種の体制が必要だったのに、それに備えていないとの判断だ。
 もっとも、実際には3.11前に津波対策の欠落は経営層にも認識されており、防潮堤の建設や運転を止めての対津波対策は認識され、経費も想定されていたが。
 ところが東電は、そうした対策をしていない組織が、3.11以後10年も維持されていた。この一点だけでも原発を動かす資格はない。

9.これは知らないことにすれば責任を逃れるための方便

 といっても、実際には経営陣は3.11以前に福島第一原発の津波対策の不備を認識していた。
 刑事、民事裁判でこれらを追及され、証拠や証言を突きつけられても頑として認めようとしていないが、被告人質問などで実は認識していたことが分かってきている。
 一連の規定や事務分掌や取扱い手順などは経営層にとって「公表できないことは社内であっても誰にも伝えない」といった規定を設けて、責任の分散と回避を狙った姿勢に見る。
 そうした東電体質が問題を大きく深刻化させている。これは福島第一原発事故の「廃炉作業現場」でも起きている。(その3)に続く
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