[2021_08_26_01]社説:処理水沖合放出 「強行」前提は対話阻む(京都新聞2021年8月26日)
 
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社説:処理水沖合放出 「強行」前提は対話阻む

 東京電力福島第1原発の処理水について、東電が海底に約1キロのトンネルを新設して配管を通し、沖合で放出する計画を発表した。
 処理水を巡っては政府が4月、2023年春をめどに、海水で薄めて海洋へ放出処分する方針を決めた。
 これに対し、地元の漁業者などは十分な対話を経ずに決めたとして反発している。
 今回の沖合への放出計画に関しても、漁業者は反対の姿勢を崩していない。
 漁業者らの理解を得ないまま放出を「強行」すれば、政府や東電への不信感は増大する。かえって安全への懸念を強め、「風評」を増幅することにならないか。
 政府や東電には、丁寧な説明を尽くすことが求められる。
 放出する場所は、原発の東約1・5キロ、南北約3・5キロの漁業権が設定されていない海域の中心近くになるという。処理水に残る放射性物質トリチウムを薄めて沿岸から離れたエリアに拡散させることで、地元が心配する風評被害を抑制する狙いがあるようだ。
 東電は濃度を国の基準値の40分の1未満まで海水で希釈するとしている。それでも、長期間にわたって大量に海洋に放出されることに懸念を抱く人は少なくない。
 東電は、周辺海域でのトリチウム濃度測定の場所や頻度を増やし、監視を強化するとしている。
 だが、当事者の東電による測定が安全を担保する根拠と見なされるかどうかは未知数だ。第三者的な機関が関与する仕組みが必要ではないか。
 処理水を海洋に放出するまでの各段階でトリチウム濃度を測定するなど、客観的数値を示す姿勢が対話を進める大前提となろう。
 一方、政府は、海洋放出に伴って水産物の需要が落ち込み、販売減少や価格下落などの被害が出た場合、緊急避難的な措置として、国費で買い取るとの風評被害対策も示した。
 冷凍可能な水産物なら一時的に保管し、冷凍できないものは販路拡大を支援するという。
 流通や小売りなどの事業者に処理水の安全性の説明を徹底することも盛り込んだ。
 風評被害を受けた漁業者への支援は当然だ。
 ただ、海洋放出を前提にした対策であり、その前に、地域や漁業者らが納得する対話を進めることが重要なのは言うまでもない。
 海洋放出のスケジュールありきで進むなら、反対する人たちの理解は得られない。
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