[2021_02_10_01]「脱原発」の自民議員、さらなる“一石”を投じた理由(西日本新聞2021年2月10日)
 
参照元
「脱原発」の自民議員、さらなる“一石”を投じた理由

 原発の維持、推進を掲げる自民党にあって、菅義偉首相を支えるグループの中堅衆院議員が「脱原発」を訴える著書を出し、一石を投じている。秋本真利氏(45)=千葉9区、当選3回=が出版した「自民党発!『原発のない国へ』宣言」(東京新聞刊、272ページ。税込み1760円)。原発の限界と再生可能エネルギーの優位性を門外漢にも分かりやすく、かつ論理的に伝える一冊だ。原発推進派とのあつれきや、実力者からの圧力といった党内での実体験も赤裸々につづられている。なぜ、ここまで踏み込んで書いたのか、自民党にいながら脱原発を唱えるのか。本人を直撃した。(聞き手・湯之前八州)
――本を出版した理由は。

 「1、2年前から『再エネの時代がいよいよ来る』と日々実感していた。原発再稼働が進まない一方で、風力や太陽光の技術革新はめざましかったから。でも、党内を含め世間には『原発はコストが安い』『再エネは不安定で高い、当てにならん』と言う人が多い。だから『そうじゃないよ』という見方を、かみ砕いて入門的に広く伝えたいと考えた。加えて、やっぱり自分は国会議員だから。『政治の裏側も伝えなければ』との思いも、書いているうちにだんだん強くなっていった」

――脱原発を持論としたのはいつごろか。
 「大学院生時代に『住民投票』を研究した。住民投票の争点はいわゆる『迷惑施設』を巡る事例が多く、その流れで原子力政策の勉強を始めた。原発立地地域には政府からお金が支払われ、金で地域が培養されていく。こんな地域づくり、なんかおかしいなと。おまけに原発のごみは捨て場がない。これって、今後も続けるのはちょっと無理なんじゃないのって思った。(2011年の)福島第1原発事故が起こるより相当前のことです」

――政治家を志したきっかけは。
 「現在、行政改革担当相の河野太郎さんが当時、私の通う大学院で授業のこまを持っていて、受講した。ある時、河野さんが『核燃料サイクルとプルサーマルの仕組みが分かるか』とわれわれ学生に質問を出し、私は完璧に説明してみせた。『おまえは何者なんだ』と驚かれ、それから師弟関係になった。衆院議員になったのは、河野さんの勧めもある」

――脱原発を訴えるのなら野党から立候補した方が良かったのでは。
 「よく言われますね。でも、私はエネルギー以外は自民党の政策に共鳴している。憲法改正すべきだと思っているし、平和安全法制も賛成だし。親も政治家ではないけど自民党員だし。自民党が最も自分と親和性が高いと思っているのです」
 「与党内にいて脱原発を訴えることに意義がある。政府、与党が一体化した議院内閣制では、政策決定に及ぼす影響力は野党より与党が格段に強い。自民党で声を上げるからこそ、現状を変えられるリアルな可能性がある」

――著書の中では、現役閣僚の人や、派閥の領りょう袖しゅうだった重鎮議員の実名を挙げて、さまざまな圧力や嫌がらせを受けたことを描いている。
 「全部本当のことですから。私が初当選した2012年、自民党で脱原発を鮮明にしているのは河野さんぐらいだった。当時は福島第1原発事故が起きてまだ日が浅く、世論の原発に対する風当たりは強かったが、それでも党内の主流はやはり原発推進。『反対』と言うと『野党に行け』『出世しねえぞ』とやじられたり、会合で挙手しても指されなかったりした。地元でも『うちの議員、大丈夫か?』と白い目で見られたりして。すごくストレスフルだった」

――実名で書いたことの反響は。
 「先輩や同僚議員から心配され、驚かれたが、(実名を出した)本人からの抗議やトラブルは一切ないです」

――菅義偉首相が「50年までのカーボンニュートラル」を掲げたことで、発電時に二酸化炭素(CO2)を出さない原発を推進しようという声が再び、自民党内で高まりつつある。
 「再エネは自然由来だから、普及すればするほどコストは下がり、安定供給に向けた技術も進歩する。カーボンニュートラルは再エネだけで実現可能です。一方、原発は安全対策や地元協力にお金がかかり、これ以上安くなる見込みもない。経済合理性からこの先、原発は自然淘とう汰たされていく運命にある。推進派の人たちもそのうち分かってくると思う」

――あなたは、菅首相を支える自民党の若手、中堅議員グループ「ガネーシャの会」に所属していますね。
 「菅総理は大学の先輩で、新人候補だったころに『私の後輩だね。一緒に力を合わせて頑張ってみないか』と声を掛けていただいたのが最初。私的な勉強会にも誘ってもらった。その勉強会がガネーシャの会の前身になっているんです」

――菅首相の原発に対する姿勢をどうみるか。首相は1月の施政方針演説では「安全最優先で原子力政策を進め、安定的なエネルギー供給を確立する」とひと言だけ触れた。
 「国会以外で、菅総理の原発に関する具体的な発言は聞いたことがない。推進でも反対でもない、フラットなイメージですね。ただ、再エネ推進に対する思いは、安倍晋三前首相とは比較にならないくらい強いと感じる。安倍政権時代、私が再エネについて説明する機会が、安倍前首相に対しても、官房長官だった菅総理に対しても何度かあった。その時に返ってきた質問やコメントは、菅総理の方が安倍前首相の何十倍も『熱量』があると感じた。反応が全く違いましたから」

――九州にも玄海(佐賀県)、川内(鹿児島県)の原発があり、立地地域は経済的に相当程度依存している。脱原発に向け、どう地域住民の理解を得るか。
 「原発がなくなれば、立地地域で経済や雇用の不安が大きくなるのはよく分かっています。原発停止後は再エネの先進地域にして、国が手厚く支援をする、といった政策を考える必要がある」

――九州の再エネへの期待を。
 「九州は北海道と並んで、再エネのポテンシャルが高い。響灘(北九州市)の洋上風力発電所計画もあるし、太陽光も有望だ。九州電力は早くから地熱発電に取り組み、電力事業者の中でも再エネに理解ある会社だと思います。九州は、再エネで日本をリードする地域になり得ますよ」



 あきもと・まさとし 1975年、千葉県富里市出身。富里市議を経て衆院千葉9区で3期連続当選。国土交通政務官など歴任。自民党の再生可能エネルギー普及拡大議員連盟事務局長。超党派議連「原発ゼロの会」所属。


【記者ノート】野党議員を凌駕するその「熱量」
 壁際に飾られた、菅義偉首相とのツーショット写真。東京・永田町の衆議院第1議員会館12階にある秋本真利氏の部屋は、ごく一般的な自民党議員らしい雰囲気だった。財界と堅固なスクラムを組んできた党の方針に反して脱原発を唱え続けると聞けば、とんがった異端児を想像されるかもしれない。だが、インタビューの間、「上に物申してやる」といった気負いは全く感じなかった。
 ただ、脱原発と再生可能エネルギー普及に向けるその熱意が、永田町でも随一であるのは間違いない。原発反対を党是とするような野党の議員であっても、「原発の非合理性」と「再エネの将来性」を1時間ぶっ通しで弁ずる議員は、そうはいないのだ。常に私の目を正面から見て話す真剣さも印象に残った。

 秋本氏は、8日の衆院予算委員会の基本的質疑でも登壇した。

 今冬の電力逼迫の原因などをテーマに、梶山弘志経済産業相らと論戦。「この(電力逼迫の)事態は、天候によって変動が大きい再生可能エネルギーの弱点が原因との指摘があるが、それはミスリードだ」と主張し、電力市場の寡占などの根本的な問題点に舌鋒鋭く切り込んだ。政府に対し、予定調和で終わらぬ質問と提案を投げ掛け、与党議員としての職責のありようを示した。
 原発の是非を巡り、日本の国論はいまだに割れている。安全性、経済合理性など論点は複雑かつ多岐にわたり、答えは簡単に出そうにない。
 その冷徹な現実を直視した上でなお、秋本氏の著書「自民党発!『原発のない国へ』宣言」は脱原発論だけでなく、再エネの入門書としても最適な一冊と言える。近年、有望な電源として注目される洋上風力発電を中心に、メカニズム、制度といった内容を基本的知識から学ぶことができる。章の末尾には、参考文献のリンクもQRコードで掲載。スマートフォンを使えば、すぐに関係省庁や業界団体の資料を見られるため、より深い理解に導いてくれるのも親切だ。
 2021年は、国のエネルギー政策の指針となる「エネルギー基本計画」が改定される節目に当たる。首相の掲げた「50年までのカーボンニュートラル」に向けた行政や企業の取り組みも本格化するだろう。「自民党発!」はこうした動きを肌感覚でとらえ、一人一人が原発に対する自らの思索を深めていく一助となることを確信する。(湯之前八州)
KEY_WORD:再生エネルギー_:FUKU1_: