[2021_01_15_05]中国が「気象制御能力」強化 人工降雨で砂漠化阻止(島村英紀2021年1月15日)
 
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中国が「気象制御能力」強化 人工降雨で砂漠化阻止

 人工降雨というものがある。昔から地球物理学の夢だった。
 もともとは雨乞いだった。雨が降らないと農業にも生活にも差し支える。雨乞いは世界各地で行われ、歴史は長い。
 人工降雨は20世紀から行われるようになった。雲の中に氷の粒を作るために強制的に雪片を作る物質を散布する手法だ。材料は「シーディング物質」と呼ばれる。散布するのは飛行機が多いが、ロケットや大砲による打ち上げもある。
 人工降雨の材料にはドライアイスやヨウ化銀を使うのが一般的だ。安価な材料で失敗したこともある。2008年、モスクワ上空でロシア軍によるセメント散布が実施された。だがセメントが粉状にならず、民家に落下してしまった。
 かつて雨乞いが成功したように見えたこともある。現代から見れば、大規模な焚き火で出た煙や塵が上空でシーディング物質の働きをしたのではないかと思われる。
 人工降雨は水不足や旱魃(かんばつ)の対策として世界各地で行われてきた。
 また、大きな行事当日の好天を狙って事前に雨を降らせたこともある。
 中国では2008年の北京五輪の開会式は晴れだった。現地は梅雨どきだったが、晴れた。事前にヨウ化銀を載せたロケット1104発が市内21カ所から発射された。
 ロシア(旧ソ連)でも、事前に雨を降らせて行事の当日を好天にしたことがある。
 日本では戦後に電力需要の大半を水力発電に頼っていた。旱魃や渇水期になると発電量は下がって突発的な停電や計画停電が頻発した。このため1950年代から1970年代にかけて各地で実験が行われた。
 しかし、人工降雨で得られる雨量は、本来の雨量を1割程度増加させるくらいで自由に降水量を制御できるまでにはならない。また、水力発電が電力の供給に占める割合も減った。それゆえ日本での人工降雨は下火になっている。
 人工降雨はある程度発達した雨雲があるときだけ成功する。雲のないときに雨雲を作って雨を降らせるのは不可能だ。
 しかしたとえ増えるのが1割でも、中国だけは突出して人工降雨に突き進んでいる。去る12月に中国が「気象制御能力」の強化計画を発表した。主な目的は人工降雨だ。対象となる地域は550万平方キロメートル。日本の面積のなんと15 倍にもなる。
 これはもっぱら農業のために砂漠化をくい止めるためだ。砂漠化は食糧の枯渇につながる。
 砂漠化とは土地が荒れてしまって不毛の地に変化することだ。完全に砂漠にならなくても農業ができない土地になってしまうのが砂漠化である。
 中国でも砂漠化がどんどん東に進んで、北京近くにまで達している。
 国連によれば、世界で砂漠化してしまった土地は約3600万平方キロメートルもある。陸地の約4分の1。世界の3分の2もの国が砂漠化に悩んでいる。
 砂漠化の影響は世界の人口の7分の1、10億人にも及んでいる。そのうち6億人もが栄養不足に苦しんでいるが、この人々は途上国に集中している。たとえ効果が少なくても、人工降雨に期待するところ大なのである。
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