[2021_01_04_01]「費用と時間の問題」 除染継続に批判の声も 【復興を問う 帰還困難の地】(43)(福島民報2021年1月4日)
 
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「費用と時間の問題」 除染継続に批判の声も 【復興を問う 帰還困難の地】(43)

 政府は十二月二十五日の原子力災害対策本部会議(本部長・菅義偉首相)で、東京電力福島第一原発事故に伴う帰還困難区域のうち再び人が住めるように整備する特定復興再生拠点区域(復興拠点)から外れた地域について、未除染でも地元意向に応じて避難指示を解除できる新たな仕組みを決定した。
 人が居住しない公園や工業用地などに土地を活用する場合に限った特例措置としている。内閣府原子力災害対策本部原子力被災者生活支援チームの担当者は「年間積算線量が二〇ミリシーベルト以下に下がることが確実、地元との十分な協議という二つの解除要件は維持した」と強調した。
 政府は将来的な帰還困難区域全域の避難指示解除を掲げている。だが、復興拠点外について人の居住を前提とした解除の方針や具体的な時期は示していない。二十五日の政府決定では、各自治体で復興拠点外の面積や課題が異なる現状を踏まえ、「個別に課題や要望を丁寧に伺いながら復興拠点外の解除方針の検討を加速化させていく」との表現にとどまった。
 「二〇ミリシーベルト」は復興拠点の避難指示の解除要件にもなっている。数値の根拠は国際放射線防護委員会(ICRP)の考えに基づく。
 ICRPは原発事故発生後の被ばく線量管理について、事故収束後の「復旧期」は年間二〇ミリシーベルトから徐々に平常時の被ばくの限度一ミリシーベルトに戻していくよう勧告している。二〇ミリシーベルトは原発事故後に住民の避難の目安にも用いられたが、住民らの反発を招いた。政府が除染の長期的な目標を「年間の追加被ばく線量一ミリシーベルト以下」と掲げたため、「より線量が低い年間一ミリシーベルト以下でなければ安心できない」との意識が浸透したためだ。
 二〇一一(平成二十三)年には国の低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループが「年間二〇ミリシーベルトの被ばくによる健康リスクは他の発がん要因によるリスクと比べても十分に低い」との報告書をまとめた。政府はさまざまな場で二〇ミリシーベルトの科学的根拠への理解を求めてきた。しかし、環境省の担当者は「国民、県民の多くは今も納得していない」と認める。
 「除染費用と時間の問題だ」。住民が求める一ミリシーベルトを避難指示の解除要件とせず、二〇ミリシーベルトを維持し続けることについて政府関係者は別の理由を打ち明ける。
 環境省によると原発事故発生後、国は直轄除染だけで一・五兆円以上を投入してきた。現在、帰還困難区域で整備が進められている復興拠点は、計画の認定から除染などを行い避難指示を解除するまで五年ほどかかる。帰還困難区域の避難指示解除には多額の除染費用に加え、数年単位の時間を要する。一方、帰還の意向を問う復興庁などの住民アンケートに対し、帰還困難区域を抱える町村の多くで「(町村に)戻らない」との回答が半数を超えているのが実情だ。
 政府関係者は「人が戻らない地域に除染費用を投じ続けることに批判的な声もある。二〇ミリシーベルトに住民の理解が得られていないのは分かるが、直ちに一ミリシーベルトを目指すのは現実的ではない」と苦々しげにつぶやいた。
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