[2020_01_31_07]【声明】除染土再利用の省令案に反対する 用途制限・濃度制限記載なし 責任は不明 「知る権利」すら担保されない(FOE_JAPAN2020年1月31日)
 
参照元
【声明】除染土再利用の省令案に反対する 用途制限・濃度制限記載なし 責任は不明 「知る権利」すら担保されない

 環境省は、除染土の再利用のための「省令案」など(注1)を、現在パブリック・コメントにかけています。
 私たちはいままで除染土の再利用方針そのものに反対してきました。しかし、この省令案は、具体的な制限や責任が何一つもりこまれておらず、さらに問題です。このままでは、高濃度の放射性物質を含む除染土が、住民の知らない間に再利用され、ずさんな管理により除染土が拡散してもその責任をだれも負わないということになりかねません。

 1.除染土再利用の「手引き」とパブコメ対象の「省令案」

 環境省の審議会(中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会)は、かねてより、福島県内の除染で生じた1,400万m3とされる土壌および廃棄物のうち、 8,000Bq/kg以下のものを「遮蔽および飛散・流出の防止」を行った上で、道路・鉄道・海岸防災林・防潮堤の盛土材、廃棄物処分場の最終覆土材、中間覆土材、土地造成・水面埋立の埋め立て材、農地の嵩上げ材など、全国の公共事業や農地造成で利用できる方針を策定し、そのための手引きを審議しています。手引き案では工事期間や用途ごとに濃度の上限や被覆の厚みなどを記載しています(注2)。
 ところが現在、パブコメにかけられている「省令案」では、これらの用途制限、放射能濃度限度、被覆、管理期限、情報公開など具体的なことが何一つ盛り込まれていない上、手引きについての言及もありません。
 また、事業実施者、管理者の責任がまったく不明です。
 「国又は地方公共団体その他環境大臣が定める者が除去土壌の再生利用に係る工事を施工すること」「国又は地方公共団体その他環境大臣が定める者が除去土壌の再生利用を行った場所の管理を行うこと」としているのみで、その「国又は地方公共団体その他環境大臣が定める者」の具体的な責任、また環境省の責任については何も記されていないのです。環境大臣が定める者としては、特殊法人や独立行政法人、国又は地方公共団体の出資又は拠出に係る法人としています。
 さらに、事業実施者、管理者の情報公開義務に関しても、書いてありません。
 このままでは、高濃度の除染土が住民の知らない間に再利用されることもあり得ます。また、住民が法令違反として、事業実施者の責任を問うこともできなくなる恐れがあります。
 水害で構造物が決壊して除染土が河川に流出したりしても、だれも責任をとらず、また、責任を問えないような省令が成立してしまいそうです。
 除染土の再利用の実施主体は必ずしも国や地方公共団体ではなく、特殊法人や独立行政法人かもしれません。行政が、「民間がやることですので」と責任を転嫁することも大いにありえるのではないでしょうか。

 2.放射性物質の環境中への拡散許す

 そもそも、放射性物質は集中管理するべきであり、公共事業や農地造成に除染土を利用すべきではありません。環境省は、公共事業は「管理されている」としていますが、現在の省令案では管理主体やその責任が明確でない上、道路、防潮堤、土地造成にいったん除染土を使ってしまえば、放射性物質を環境中に拡散することになります。豪雨や河川の氾濫、地震などの自然災害が多発・激甚化していることも忘れてはなりません。また、建造物の寿命が終わった後、その資材がどうなるかについてはまったく不明です。
 放射性物質は集中管理が原則です。公共事業への再利用は事実上の「最終処分」となります。これは分散させて埋め立てることにほかなりません。
 原発施設などから発生する低レベル放射性廃棄物は、ドラム缶につめて厳重に管理・処分されることとなっています。原子炉等規制法に基づく規則においては、原発の解体などによって発生したコンクリートや金属などの再生利用の基準は、セシウム 134・137の場合、100Bq/kgです。8,000Bq/kgはこの80倍もの値です。

 3.管理期間は不明、掘削や形状変更も可能

 除染土を道路の盛り土として使った場合、セシウム134・137が100Bq/kgまで減衰するのに170年かかります。一方、盛り土の耐用年数は70年とされており、「その後はどうするのか?」という問いに環境省は答えていません。それどころか、「管理期間は何年か」という問いにもこたえておらず、除染土を再利用した場所の掘削や形状変更も、「届け出」すればできることになっています。

 4.住民は反対してきた

 環境省は、福島県二本松市で農道の路床材に使うという実証事業を行おうとしました。地区の 21戸の中で9戸しか参加していない中で、説明会が開催され、「地元了解」ということにされてしまったのですが、その後、そのことに憤った住民たちが反対運動を展開。事業は事実上、撤回されました。
 南相馬市小高地区では、高速道路の4車線化の構造材に近隣の仮置き場の除染土を使う実証事業を実施しようとしましたが、地元区長や住民が反対の強い意思を表明しています。
 唯一、進行しているのが、飯舘村長泥地区で、飯舘村の除染土を農地造成に利用するという実証事業です。この事業は、居住地域の除染を含む特定復興拠点計画と「セット」で提案されため、住民にとっては、実証事業自体のメリット・デメリットについて説明され、自由に意見を言う状況にあったかどうかは疑問があります。

 5.必要とされる国民的議論

 環境省は中間貯蔵施設への除染土の運び込み量を最小限にするためにこの方針を策定したといいます。中間貯蔵施設建設後、30年後には廃棄物を運び出し、県外で最終処分することが約束されているため、最終処分量を低減するためです。しかし、「30年後に運びだす」ということ自体、まったく絵空事であり、これは中間貯蔵施設への同意を取り付けるためだけの空約束ではないでしょうか。
 除染土をどう処分すべきなのかについては徹底的な国民的議論が必要です。環境省は現在までの検討状況について、全国で説明会や公聴会を開催した上で方針を決定すべきではないでしょうか。
 私たちは無責任な除染土再利用の省令案に反対します。

注1)平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令(案)及び環境大臣が定める者の告示(案)について
注2)福島県内における除染等の措置に伴い生じた 土壌の再生利用の手引き
https://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/proceedings_191219_02-02.pdf

(後略)

KEY_WORD:除染土_最終処分_:HIGASHINIHON_: