[2020_12_02_07]「コロナ対策」のため「原子力防災」は崩壊した 新型コロナウイルス感染症と原子力防災 原発事故時には「感染症」と「放射性物質」の二重の防護が必要になる 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ舎2020年12月2日)
 
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「コロナ対策」のため「原子力防災」は崩壊した 新型コロナウイルス感染症と原子力防災 原発事故時には「感染症」と「放射性物質」の二重の防護が必要になる 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

◎ 今年、新型コロナ感染症が拡大した結果、原発事故時の避難行動についても大きな問題が生じた。
 避難所や避難途中の交通機間内でクラスターが発生しないように密集を回避しなければならなくなったことと、放射性物質の遮蔽には気密を保つ必要があるところ、感染防止のためには換気が欠かせないこととされ、相矛盾する対策が必要になった。
 内閣府は2020年11月2日付けで「新型コロナウイルス感染拡大を踏まえた感染症の流行下での原子力災害時における防護措置の実施ガイドラインについて」を各道府県原子力防災宛てに発出した。
 そこでは「全面緊急事態(GE)に至った後は、放射性物質による被ばくを避ける観点から、扉や窓の開放等による換気は行わないことを基本とする。ただし、感染症対策の観点から、放射性物質の放出に注意しつつ、30分に1回程度、数分間窓を全開にする等の換気を行うよう努めること。」と、到底実行できそうもないことが書かれている。
 これは避難用の交通機関及び一時避難所や屋内退避でも実施するとされる。
 放射性物質の防護とはかけ離れた対応と言わざるを得ない。

◎ これをおこなうためには、最低限「プルーム通過中」など空間線量率を精密に測定できなければならないが、そのような装置はどの避難所にも置かれていない。
 また、多少は判断の根拠になり得るSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)は2014年10月8日に、規制委は住民の避難範囲を決める際、このSPPEDIの計算結果は利用しないと決めたため使えない。
 「予測手法に頼った防護措置は無理なので採用しない。放出後の気象条件等の自然条件の考慮は予測困難のため放棄。モニタリングポストでの実測によって判断する」こととされた。
 しかし、モニタリングポストは避難所にあるわけではない。
 また、資機材の不足(そもそも準備もされていない等)は深刻だ。
 マスク、目の防護(フェイスシールドやゴーグル)、使い捨て手袋、医療用ガウンなどは、パンデミック時にも大量に不足した。
 原発事故時には感染症と放射性物質の二重の防護が必要になる。

◎ 避難途中の交通機関でも大きな問題が生じている。
 避難時のバスの座席についても次のような指示がある。
 「全面緊急事態(GE)以降に、バス避難する場合、十分な間隔を空け、マスクを着用し、無用な会話や密が避けられない場所での飲食は控えることを徹底すること。」として乗車レイアウト図が掲載されている。
 そこでは約50人乗りの大型バスで座席の窓側にのみ乗車させることとし、たった20名しか乗せられなくなっている。これでは避難時に必要とされるバスの台数が2.5倍になる。さらに発熱者や農耕接触者のある場合は乗車人員は10名とされている。
 さらに、避難者に避難所等で書かせる「健康チェックリスト」の例も酷いものである。
 避難者の氏名年齢を書かせた上で、様々な症状がないかを10項目にわたり書かせ、介護や介助が必要か、障がいの有無、基礎疾患の有無、てんかんの有無など極めて機微な個人情報も書かせている。
 これを誰がどのように管理するのか、それによっては誰も書きたくなくなるだろう。
 コロナ禍は、原発事故対応に深刻な問題を投げかけているのに、内閣府は、このガイドラインだけで対処せよというのだ。

◎ 実際には避難させない!?

 矛盾だらけの原子力防災。
 30キロ圏(UPZ)内だけでなくもっと広い範囲で避難が必要な災害も起こりえることは規制委も否定していない。
 原子力規制委員会の更田委員長は次のように発言している。
 「防護措置上の判断を予測手法に頼ろうとすると(中略)願望を事実であるかのように信じ込ませようとするのを「安全神話」と呼んでいて、これはもう安全神話に過ぎなくて、長年、我が国は世界的に極めて異例な、ガラパゴス的防災対策を採ってきたために、その安全神話が広がり過ぎてしまっている部分がありますけれども、UPZやUPZ外に影響が及ぶような事故において、どういった放射性物質がどれだけ、いつ、放出されることを事前に知ることができるなどというのは、これは完全に安全神話に過ぎない。当然、願望としてはあり得るでしょうけれども、その願望に基づいて、住民の方の健康に関わるような判断をするというのは極めて危険です。あり得ないと思っています。ですので、それであるとか、あるいは、ある方位だけ防護措置を執ればいいという判断ができると考えることも極めて危険です。」(2015年4月22日規制委員会議事録)

◎ 30キロ圏の防護範囲を超える事態もあり得ない話ではない。UPZの一部で放射性物質が到達しないなと判断することも「安全神話」であると明確に述べている。
 これに対して国は「第4層の重大事故対策があるから外部への放射能の放出はない。外部への放射能の放出はほぼないので5層(避難)における人への著しい放射線被ばくのリスクは考慮する必要はない。」と述べている。(国側第13準備書面)
 これは事実上広域避難計画の実質放棄である。
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