[2020_10_16_07]宇宙に満ちている人工衛星のかけら(島村英紀2020年10月16日)
 
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宇宙に満ちている人工衛星のかけら

 気象衛星の「ひまわり」やGPS(全地球測位システム)など、人工衛星は現代の生活に欠かせない。全国の地震や火山の観測データも、人工衛星経由で即時に集められる時代だ。
 現在、稼働している人工衛星は約1700ある。一方、任務を終えたり故障したりして放置されている衛星は約2600もある。
 そして、人工衛星の「かけら」として地球のまわりには少なくとも50万個が漂っている。70万個に達するのではないかという説もある。多くは人工衛星同士が衝突して発生した破片だ。そのうち2万個は10センチ以上の大きさで、相対速度が大きいから、宇宙飛行士や人工衛星にとってとても危険なものだ。
 現実に衝突も頻繁に起きている。大きなものでは、2009年、米国の「イリジウム33」とロシアの「コスモス2251」が衝突した。そのときの相対速度は時速4万キロメートル。弾丸よりもはるかに速い。2機の人工衛星とも破壊され、数百個以上もの10センチ以上の破片がばら撒かれた。
 このほか中国による意図的な破壊もある。軍事衛星を打ち落とす2007年の実験では、危険なかけらの数を2倍にもしたと推定されている。
 また約30機もの人工衛星が原子炉を持っているのも大きな問題だ。放射性物質が漏れ出す危険性がある。宇宙の原子炉には「地元の反対」はないから、打ち上げ国のやり放題なのだ。
 原子炉は、太陽光発電では足りない大電力の用途、たとえば高解像力のレーダーを持つスパイ衛星に使われている。
 1965年に米国が打ち上げた「SNAP 10-A」は原子力宇宙船の実験機だ。30kW(キロワット)の発電能力がある。
 だが、史上初のこの衛星搭載の原子炉は43日目に電気回路が故障した。そして1970年代になると、多分、衛星の衝突で機体は分解し、現在は約100個のかけらが生まれている。
 この衛星は現在、地上から約1300キロメートルの軌道にあり、地球に落ちるまで4000年かかる。それゆえ放射性物質が地球に戻ってくるまでに十分弱まるというが、衝突などがあれば分からない。
 また、ロシア(旧ソ連)のいくつもの人工衛星が原子炉を積んでいる。
 1978年、旧ソ連の人工衛星が大気圏に突入して、カナダの雪原に放射性物質を撒き散らしたこともあった。
 1987年には原子炉を搭載する「コスモス1818」を打ち上げた。海洋偵察衛星として設計されていたが、5日だけ稼働して機能が故障した。
 同年に打ち上げた「コスモス1867」はやはり原子炉を搭載している。1818の双子だが、カナダでの事故の教訓から、1818と同様に高高度軌道に打ち上げたために、今度は太陽の熱によって壊れて原子炉の冷却管にヒビが入って、放射性の液体金属を宇宙空間に放出する事故を起こした。
 衛星が数キロ以内ですれ違う事件は、毎日のように発生している。
 宇宙は人工衛星のかけらに満ちている。
 そして、宇宙で危険があるばかりではなく、それらから放出された物体や液体の一部は放射能があり、いずれは地球に落ちてくるのだ。

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