[2020_10_02_03]社説:原発賠償判決 問われた国の重い責任(京都新聞2020年10月2日)
 
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社説:原発賠償判決 問われた国の重い責任

 原発事故に関する国の責任が、高裁レベルで初めて認定された。
 東京電力福島第1原発事故で、仙台高裁が国と東電に対し、原告3550人に計約10億1千万円の支払いを命じた。一審の約2900人、計約5億円の賠償命令から救済範囲を大きく広げた。
 原発事故による避難者の立場を踏まえた司法判断といえる。
 福島第1原発事故の賠償を巡っては、国を被告に含む13件の一審判決のうち7件が国の責任を認めたが6件が否定し、判断が割れている。特に昨年以降は国の責任を認めない判決が相次いでいた。
 高裁判決はこうした流れを変え、各地の訴訟にも影響を与える可能性がある。国や東電は指摘をしっかりと受けとめてほしい。
 とりわけ、一審で東電の半額にとどめられた国の賠償額を同じ水準に引き上げた理由については、真摯(しんし)な吟味が必要ではないか。
 判決は、政府機関が2002年に公表した大津波の危険性に関する「長期評価」を知った際の東電と国の対応を検証している。
 それによると、東電は新たな防災対策を極力回避し、先延ばししたい思惑があったと指摘。国は東電の不誠実な報告を唯々諾々と受け入れ、規制当局としての役割を果たさなかったと批判した。
 こうした義務違反は、慰謝料算定で考慮すべき要素の一つとの見解を示している。
 さらに、「原発の設置・運営は国家のエネルギー政策と深く関わり、自らの責任で原発の設置を許可した」とした。国の責任を重くとらえたといえる。
 原発事故に伴う巨額の賠償を国も事業者と同等に担わなくてはならないとする司法判断の意味を、あらためて考えるべきだろう。
 政府は今後のエネルギー計画でも原発の発電比率を2割程度維持する。原子力規制委員会は40年を超える老朽原発の延長運転を認可した。原発を継続するなら大事故のリスクにどう向き合うか、十分な説明と国民的議論が必要だ。
 救済範囲の拡大は、旧居住制限区域などの区域ごとに賠償金額を上乗せし、原発から距離がある地域の原告にも適用を広げた。
 賠償額については、今回も一審に引き続き、国が基準を定めた中間指針を上回った。指針に拘束されずに個々の事情に応じて算定する判決も複数出ている。
 すでに形骸化しているのではないか。政府は指針を改定し、避難者の被害実態に見合った救済策を整えるべきだ。
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