[2020_09_27_05]「石炭火力の2分の1という低コスト」「1プロジェクトで原発100基分の大出力」「欧州ではすでにビジネスとして軌道に」未だに再エネをバカにする人が全く知らない洋上風力発電の最先端(サンデー毎日2020年9月27日)
 
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「石炭火力の2分の1という低コスト」「1プロジェクトで原発100基分の大出力」「欧州ではすでにビジネスとして軌道に」未だに再エネをバカにする人が全く知らない洋上風力発電の最先端

 洋上風力発電は欧州を中心に大きく成長してきた。脱炭素に本気で取り組む欧州各国は、再生可能エネルギーとして、特に大規模な電力を確保することができる洋上風力に力を入れてきた。その結果、最近では1キロワット時当たり5円台の売電価格という低コスト化を達成。これは最も価格競争力がある石炭火力発電の半分以下という驚愕(きょうがく)の価格なのである。欧州では補助金なしで事業採算の取れるプロジェクトも出現しており、洋上風力はもはや、商用的に成立する再生可能エネルギーとなっている。
 オランダとデンマーク、ドイツの企業による「北海風力発電ハブ」構想も持ち上がっている。これは北海上の浅瀬に人工島を建設し、将来建設される洋上風力発電の大規模接続点を造ろうというもの。一つの人工島で7000万〜1億キロワットの風力発電を接続可能で、直流送電で各国に電力を供給するという構想で、2050年までに実現させる考えだ。一般的な原子力発電所の100基分に相当する規模だ。
 欧州以外でも洋上風力の波は拡大している。米国では、25年までに900万〜1400万キロワット、30年までに2000万〜3000万キロワットの導入を目指しており、これにより最大で年間20兆円を超える経済効果があると試算している。
 アジアでは台湾でも洋上風力の開発が大規模に進められている。今年6月時点で1地点12万8000キロワットが稼働し、2地点で75万キロワットが建設中だ。欧州や日本も台湾の洋上風力に注目しており、事業開発面や風車、基礎の供給、コンサルティングなど各分野の企業が台湾での事業機会の獲得を狙っており、世界的に洋上風力が「ビジネス」として定着してきている。

 ◇「海域利用法」で活発化

 日本でも洋上風力は実証試験が一部で行われてきたが、ビジネスとしての成立はまだ将来のことと捉えられてきた。そのため、日本は洋上風力に必要な基本技術をほとんどそろえているにもかかわらず、欧州に大きく後れを取ってしまった。
 地理的に不利な面もあった。日本の風力発電は陸上中心に進められてきたが、開発が進むにつれ風況の好適地が減少し、送電線への接続も厳しくなった。また日本特有の巻き風のため、欧州製風車が効率的に発電できず、故障の原因にもなった。さらに、陸上では生活圏に近いため、風車の騒音・振動による健康被害の報告も問題視され、長らく風力発電が事業として成立しにくい状況が続いた。そのため、日立製作所をはじめ風力発電メーカーが市場から撤退することが相次いでいた。
 しかしビジネス化に本気で取り組んできた欧州での成功事例を背景に、日本でも取り組みが本格化。昨年4月には再エネ海域利用法が施行された。これは洋上風力に使用する海域の利用権を20年程度の長期間、認めるもので、これにより洋上風力の事業性の確保が可能になると期待されている。また同法によって、洋上風力の促進地域、有望区域などが公表され、風力発電計画が活発化してきている。
 洋上風力は、再エネの中でも大きな出力が出せる。欧州では1基の出力が1万キロワットを超える大規模風車が中心となり、一つのプロジェクトで100基以上設置される。つまり原発1基分の出力を一つの洋上風力で賄うことが可能となるわけだ。それが多数、計画されることで、脱炭素化に大きくかじを切ることが可能となっているという面もある。
 日本でも、同規模のプロジェクトが実施される可能性は高い。風車1基当たり数億円と言われているので、一つのプロジェクトで数百億円、中には1000億円規模のプロジェクトも出てくることは確実だ。しかも「洋上風力は大規模LNG(液化天然ガス)プラントに匹敵する物量となる」(大手エンジニアリング会社)。プロジェクト産業から見れば、久しぶりに大きな市場が国内で創出されることになる。日本風力発電協会(JWPA)の試算によると、国内の洋上風力発電のポテンシャルは100ギガワットを超えるとしている。原発100基分以上である。それが全部実現するわけではないが、これだけのポテンシャルのある市場への期待は非常に高い。 

◇国産化へ導入目標を

 ただ課題はまだ多い。第一に、日本の風力発電機メーカーがいなくなったこと。現在、三菱重工業がデンマークのヴェスタス社と「MHIヴェスタス」という合弁会社を設立し、洋上風力発電機を供給しているのみ。世界では他にシーメンスガメサ・リニューアブル・エナジー、中国勢などが大きなシェアを確保しているが、日本はこれらのメーカーから風力発電機を輸入しなければならない。
 また風車のタワーや洋上の基礎構造物の製造能力も日本は足りていない。日本で造ったとしても、欧州から輸入した方が安くなるとみられている。
 さらに、風車とタワーの組み立てを行い、風車を洋上基礎に設置するための作業船に載せる基地港が今のところ日本には存在していない。とはいえ現在すでに、北九州と秋田での基地港整備が進められており、秋田は年内にも稼働開始の予定だ。茨城県の鹿嶋や秋田の能代でも基地港が順次整備されていく予定だ。
 7月には経済産業省と国土交通省によって、洋上風力の官民協議会が発足した。これは、洋上風力市場の計画的・継続的な導入拡大と、関連産業の競争力強化を一体的に進めていくことを目指したものだ。
 1基の洋上風力発電施設に必要なパーツは1万点以上とも言われており、その裾野は広い。鋼構造材や発電機、減速機、ローター、軸受け、ブレード、海洋工事、係留機器・資材など業界も多岐にわたる。ただ、そのためにはやはり市場見通しが立たねばならない。経産省の試算によると現在、事業者が開発検討対象としている区域の合計で約3400万キロワットある。
 投資判断としては年間100万キロワットが少なくとも5〜10年は継続する必要があるとしており、市場として成立していくにはさほど時間はかからないものと見られる。これらが動き出せば、巨大産業が日本に生み出されるわけだ。
 しかも再生可能エネルギーは純国産エネルギーであり、そのシェアが拡大することは脱炭素化だけでなく、エネルギーセキュリティーの面でも重要な意義がある。さらに、輸出産業としての可能性も大きい。この一大産業を日本に生み出すべく、より挑戦的な導入目標を設定し、その実現を図っていく必要がある。

(宗敦司、エンジニアリング・ビジネス編集長)

(本誌初出 始動!洋上風力ビジネス 1プロジェクト1000億円も 部品1万点超で裾野広く=宗敦司 20200915)
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